銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】NOPE/ノープ

映画日誌’22-34:NOPE/ノープ
 

introduction:

ゲット・アウト』『アス』などのジョーダン・ピールが監督、脚本、製作を務めたサスペンススリラー。田舎町の空に突如現れた謎の飛行物体をめぐって、動画撮影に挑む兄妹がたどる運命を描く。『ゲット・アウト』でもピール監督と組んだダニエル・カルーヤ、『ハスラーズ』などのキキ・パーマー、『ミナリ』などのスティーヴン・ユァンのほか、マイケル・ウィンコット、ブランドン・ペレアらが出演する。(2021年 アメリカ)
 

story:

ハリウッド近郊の田舎町で広大な牧場を経営するヘイウッド家。ある日、家業をサボって街に繰り出す妹エメラルドにうんざりする長男OJが父親と言葉を交わしていると、突然空から異物が降り注ぎ、それによって父親が命を落としてしまう。OJは父親が死の直前、雲に覆われた巨大な飛行物体のようなものを目撃していたことを妹に話し、彼らはそれを動画に収めてネット上に公開することを思いつく。撮影技術者に声をかけて撮影を始めた彼らに、想像を絶する事態が待ち受けていた。
 

review:

"Nope"は"no"を強調して返事するときに使うスラングだそうだ。なかなかヤバい映画である。とりあえず妹のエメラルドがうるさくて癪に障る。IMAXだと度を超えてうるさいので要注意。そしてジョーダン・ピール、相変わらず間延びするテンポが少々退屈で睡魔が襲ってくる。しかも尺が長い。個人的にあんまり相性のよくない監督ではある。が、総じて面白かった(どっちだ)。
 
ジョーダン・ピールは、『ゲット・アウト』『アス』など風刺を利かせた作風のサスペンススリラーで知られる。いずれも人種差別を鋭く描き、主要な登場人物はアフリカ系で占められ、今作もメインキャストはアジア系を含めた有色人種が占める。ジョーダン・ピールは今回そこに、ハリウッドや映画業界に蔓延る搾取の構図を取り込んだ。
 
作中に「The Horse in Motion(動く馬)」という世界初とされるクロノフォトグラフィーが登場する。貴重な歴史的資料として保管されており、馬の名前や馬主の名前は記録されているが、馬にまたがっている黒人の名は残っていないという。その末裔を名乗るヘイウッド兄妹が、映画業界の仕事を失うところから物語が始まる。
 
そこに、映画業界から使い捨てされたアジア系子役であるジュープが登場する。彼はかつて『ゴーディ 家に帰る』というテレビ番組で人気を博したが、出演中に凄惨な事件が起きる。チンパンジーの意味が分からなかったという書き込みを多く見かけたが、チンパンジーとの一件は、おそらくジュープの自己過信を産んだ。起立した靴は、その奇跡(と思い込まれたもの)を象徴するものと思われる。
 
作品冒頭に登場する「わたしはあなたに汚物をかけ、あなたを辱め、あなたを見せ物にする」という旧約聖書の引用が示唆している通り、調教され、見せ物にされるチンパンジーや馬は白人社会で虐げられてきた有色人種のメタファーなのだろう。そしてかつて「見せ物」にされ、搾取されてきた側の人間たちが、「見せ物」で一攫千金を狙う。全体に漂うB級感にうっかり惑わされそうだが、実は物凄くえげつない構図の物語なのである。
 
B級SF映画的、不条理な展開が笑いを誘うが、ジョーダン・ピールがこの作品で描こうとした核心が分かってしまうと、何とも言えない不穏な気持ちになる。そしてその上で、もう一度確認しに行きたくなる。間延びしたテンポが苦手だから私はもう観ないけどな。んで、妹がゲイの設定いる・・・?無理やり本筋に全く影響ないLGBT文脈入れなくてよくない・・・?ってちょっと思ったのは内緒だ。
 

trailer: