銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】愛を綴る女

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-60
愛を綴る女』(2016年 フランス,ベルギー)
 

うんちく

『愛と哀しみのボレロ』など女優としても知られるニコール・ガルシア監督が、ミレーナ・アグスのベストセラー恋愛小説「祖母の手帖」を映画化。『エディット・ピアフ~愛の讃歌』『たかが世界の終わり』などのマリオン・コティヤールを主演に迎え、ある女性がたどる、17年に渡る愛の軌跡を描く。『ローマ法王になる日まで』などのアレックス・ブレンデミュール、『サンローラン』などのルイ・ガレルが共演。カンヌ国際映画祭セザール賞において、主演女優賞、監督賞などに多数ノミネートされた。
 

あらすじ

フランス南部の小さな村に暮らす、若く美しいガブリエル。最愛の男性との理想の結婚を夢見ながらも、地元の教師との一方的な恋に破れ、不本意ながら両親の決めたスペイン人労働者ジョゼと結婚生活を始める。正直者で情の深いジョゼはガブリエルに献身的に接するが、彼女は彼を絶対に愛さないと心に誓っていた。そんな折、流産の原因が結石と診断されたガブリエルは、アルプスの山麓の療養所に滞在することになる。そこでインドシナ戦争で負傷した帰還兵のアンドレと運命的な出会いを果たし…..
 

かんそう

この狂気を孕んだ愛の物語を、押し込められた閉塞感のなかで大胆に奔放に、どこまでも美しく、神秘的かつ官能的に演じきったマリオン・コティヤールの素晴らしさは筆舌に尽くし難い。この傑作を産んだのはやはり、「このヒロイン役にはマリオンしかいない」と直感し、彼女のスケジュールが空くまで5年間待ち続けたガルシア監督の拘りと執念だろう。時間を行き来しながらそれぞれの視点で描かれる、溢れんばかりの情熱と官能、激しく切ない愛の息遣いが苦しい。彼らの思い出を彩るチャイコフスキー<四季>の”舟歌”、繊細で美しい音楽たちが感動を増幅させる。ラベンダー畑が広がる南仏プロヴァンズの風景、美しい海辺の家、そしてジョゼの故郷スペインの絶景に魅了される。フランコ政権下でレジスタンスに身を投じた過去を持つ、寡黙で骨太な夫ジョゼを演じたアレックス・ブレンデミュールも素晴らしかった。彼らが辿った17年もの歳月が、愛とは、という疑問符とともにずっしりと重く心に残る。それでいて温かく優しい気持ちになる、素晴らしい作品であった。