銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ウィ、シェフ!

映画日誌’23-23:ウィ、シェフ!
 

introduction:

移民の少年たちが暮らす自立支援施設を舞台に、一流料理店の副料理長だった女性シェフが料理を通して少年たちと交流する姿を描いたフランスのコメディドラマ。監督は『社会の片隅で』などのルイ=ジュリアン・プティ。『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』のオドレイ・ラミーが主演を務め、オーディションで選ばれた実際の移民の少年たち、『最強のふたり』などのフランソワ・クリュゼらが共演する。(2022年 フランス)
 

story:

一流レストランのスーシェフを務めるカティの夢は、いつか自分のレストランを開くこと。しかしシェフと大ゲンカして店を飛び出してしまう。ようやく見つけた再就職先は民の少年たちが暮らす自立支援施設で、まともな食材も器材すらない。不満をぶつけるカティに、施設長のロレンゾは少年たちを調理アシスタントにしてはどうかと提案する。天涯孤独で人付き合いが苦手なカティと、フランス語が苦手な少年たちは、料理を通して少しずつ打ち解けていく。
 

review:

フランスの移民受け入れの歴史は長く、18世紀後半まで遡る。出生率の低下による労働力や兵士不足で、積極的に移民を受け入れてきた。そして現在は人口の4分の1を移民が占め、宗教に起因する社会の分断や失業率の上昇による貧困問題、不法移民の増加など、深刻な社会問題にもなっている。本作は、危険を冒して単身フランスにたどり着いた未成年の青年たちを調理師として育成して職業適格証を取得させ、安定した暮らしを手に入れられるよう奮闘する実在のシェフ、カトリーヌ・グロージャンをモデルにしたドラマだ。
 
よかった。97分という尺に、コンパクトによくまとまっている。実によくできていて感心するのだが、きちんとツボを押さえつつ物語が転がっていくので、予想外の展開にも無理やり感やこじつけ感がない。カティが誰よりも食や食材に真摯に向き合っていることや、移民の少年たちのひとりひとりに背景があり事情があることなどがさりげない描写で挿し込まれ、軽快なタッチのドラマに重みを持たせている。彼らの信頼関係が構築されていく過程も丁寧に紡がれ、好感が持てる。
 
日本人には懐かしい「料理の鉄人」的番組の裏側が描かれるが、なかなか興味深い。星付レストランとしても名⾼いお店のシェフが実名で登場しているのも見どころらしい。カティの親友ファトゥ、あれは反則。映画館で声を立てて笑うことが少ない日本人がみんな声出して笑ってたやんけ。劇場のみんなと心をひとつに出来た気がしたよね。フランスが抱える深刻な問題を社会派コメディ、そういう遊び心も含めて楽しかったし、温かい気持ちになった。そしてなにはなくとも、美味しそうな映画は良い映画。
 

trailer: