銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ハニーボーイ

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映画日誌’20-32:ハニーボーイ
 

introduction:

問題を抱える父親との関係に葛藤する、ハリウッドの人気子役の心の成長を描いた人間ドラマ。『トランスフォーマー』『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』などで知られる映画界の“異端児”シャイア・ラブーフが、自らの経験をもとに脚本を手掛け、父親役で出演。『ワンダー 君は太陽』『クワイエット・プレイス』などで注目される子役ノア・ジュプ、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』などのルーカス・ヘッジズが出演。サンダンス映画祭で審査員特別賞に輝き、トロント国際映画祭でも称賛され、その後もヨーロッパからインドやアジアまで、世界各国の映画祭に招かれ34ノミネート9受賞を果たした。(2019年 アメリカ) 
 

story:

若くしてハリウッドのトップスターとなったオーティスは、撮影に忙殺されるストレスから、次第にアルコールに溺れるようになってしまっていた。2005年のある夜、泥酔して車を運転し事故を起こし、更生施設へ送られることに。そこでPTSDの兆候があると指摘され、原因を探るため今までの思い出をノートに書くことを勧められた彼は、父親のことを思い出す。10年前、子役として家計を支えていた12歳のオーティスは、情緒不安定な前科者のステージパパ、ジェームズに振り回される日々を送っていた。そんな彼を心配してくれる保護観察員のトムや隣人の少女、撮影現場の大人たちとの交流を経て、オーティスは新たな世界へと踏み出していくが...
 

review:

ハリウッドの“異端児”シャイア・ラブーフの自伝的映画である。彼はフランス系の父親とユダヤ系の母親のもとに生まれた。ラブーフ(LaBeouf)はフランス語で牛肉を意味するそうだが、本来なら“LaBoeuf”のところを、ビートニクレズビアンだったおばあちゃんが家族と絶縁すべく、わざと綴りを間違えて登録しちゃったとのこと。シャイア(Shia)はフランスで言うところの4文字言葉(s**t)らしく、直訳するとあんまりなお名前だ。当の本人はいたくお気に入りらしいが、一人息子にこんな名前をつけちゃう両親はやっぱりヒッピーだったらしい。ああ、ヒッピーの毒親ってフェニックスさんちと一緒やないの。
 
リバー・フェニックスマコーレー・カルキンドリュー・バリモアジュディ・ガーランド・・・毒親に育てられ、破滅的な時期を過ごした子役は枚挙に遑がない。子ども時代に、まだ自分が何者かも分からないうちから、誰かが創り出した人格を何の疑いもなく演じ続ける。なんとなく人格形成に影響がありそうだし、認知が歪みそうである。人気子役の人生が破綻しがちなのはそういうことに由来するのだろうか、なんて思ったりするが、毒親の歪んだ愛情に晒されてきた子どもは役者であろうがなかろうが、十字架を背負わされた呪われた人生になる、というだけのことだ。そして呪縛から逃れるには、自分自身で解放するしかない。シャイアもその一人だった。
 
シャイア演じるやさぐれ漁師と、施設から脱走したダウン症の青年の旅路を描いた『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』が記憶に新しい。撮影中、泥酔による迷惑行為でシャイアが逮捕され、しかもアフリカ系の警官に人種差別的な発言を繰り返したとして非難の対象となり、一時は公開が危ぶまれたそうだ。オレのデビュー作に何してくれてんのって主演のザック・ゴッツァーゲン君にガチ怒られて反省した彼は更生を誓い、リハビリ施設に入所。おそらく今回の作品は、そのときに書かれた手記が元になっているのだろう。
 
シャイアが自らのトラウマと対峙するセラピーの一環だと思えば、たしかに興味深くはあるが、映画としてはこんなものかもしれない。俳優たちの演技は素晴らしかったし、映像や音楽はとても素敵だったけど、面白さは感じなかった。どこにも焦点が合っておらず、ぼんやりとした印象。残念ながら少々退屈してしまった。何しろ本人自ら脚本を書いているので、物語がごく私的なものにとどまってしまっているのだろう。親子の出来事が箇条書きになっているが、オーティス少年と父親の葛藤や心の機微の描き方が表面的で、イマイチ胸に響いてこない。とは言えシャイア・ラブーフは素晴らしい表現者であるし、ノア・ジュプとルーカス・ヘッジズもいい俳優であるからして、これからのご活躍を祈念しつつ(不採用通知
 

trailer: