銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ハッピーエンド

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-22
『ハッピーエンド』(2017年 フランス,ドイツ,オーストリア)

うんちく

白いリボン』『愛、アムール』で二度にわたってカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールに輝き、『愛、アムール』ではアカデミー賞外国語映画賞を受賞した名匠ミヒャエル・ハネケの監督作品。老境の夫婦の愛と死を描いた『愛、アムール』の続きとも取れる、あるブルジョア一家にまつわる物語が紡がれる。前作に続き、名優ジャン=ルイ・トランティニャンとハネケ作品常連のイザベル・ユペールが父と娘を演じる。『アメリ』『ミュンヘン』などのマチュー・カソヴィッツ、『裏切りのサーカス』、『アトミック・ブロンド』などのトビー・ジョーンズら、ヨーロッパを代表する実力派俳優が共演。第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。
 

あらすじ

フランス北部の町カレーで、瀟洒な邸宅に暮らしているブルジョワジーのロラン一家。建築会社を経営しているが、家長のジョルジュは高齢ですでに引退している。娘アンヌが家業を継ぎ辣腕を振るい、息子ピエールが専務を務めるも、彼はビジネスマンに徹しきれない。アンヌの弟トマは家業を継がず医者となり、再婚した若い妻アナイスと幼い息子ポールがいる。そして屋敷には、住み込みで一家に仕えるモロッコ人家族が暮らしている。そんなある日、トマと前妻のあいだに生まれた娘エヴが、屋敷に引き取られることになり...
 

かんそう

前作『愛、アムール』の続編のようでいて、全く異質なこの物語について「この家族の、いま世界で起きていることに対する無関心。彼らは自分たちの小さな問題にばかり捕われていて、社会の現実が見えていない。それを表現したかったのです。」とハネケ監督が語っている。目の前にいる人と心を交わすことはしないのに、遠くにいる誰かには本心をぶちまける。一つ屋根の下に暮らしていてもお互いの本質的なことには無関心で、人々はその孤独を埋めるように、死の影やSNSの闇に飲み込まれていく。人とのダイレクトなコンタクトを失った自閉的な社会を、定点カメラやスマートフォンの画面を通して他人事のように描く。そして終始、切り取られたような、曖昧な描写が繰り返される。私たちはその前後の物語を想像するしかない。観るものが能動的にならざるを得ないという点で、非常に挑発的な作品だ。「“不快”な映画を作るときだ」とハネケ本人が宣言している通りだろう。ただ、人間の愚かさや醜さを克明に描いていても、やはり、ハネケの映画は絶望的に美しいのだ。淡々とした語り口でありながら、エモーショナルで激しく心を揺さぶられる。万人におすすめするような作品ではないが、ハネケらしい秀作であったと思う。