銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ギフト 僕がきみに残せるもの

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-46
『ギフト 僕がきみに残せるもの』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

かつてアメリカン・フットボールの最高峰NFLで活躍し、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の宣告を受けたスティーヴ・グリーソン選手が、生まれてくる我が子に贈るため撮り始めたビデオダイアリーを基にしたドキュメンタリー。およそ4年にわたり撮影した約1,500時間に及ぶ映像から、この傑作を生み出したのは『プリント・ザ・レジェンド』や『ファインダーズ・キーパーズ』(いずれも日本未公開)などの秀作ドキュメンタリーで知られ、編集・音楽まで手がけて多彩な才能を見せるクレイ・トゥイール監督。サンダンス映画祭を始め、全米で絶賛された。グリーソンを支援するミュージシャン、エディ・ヴェダーパール・ジャム)が楽曲を提供し、出演している。
 

あらすじ

ハリケーンカトリーナ”に襲われたニューオーリンズの、市民が待ちに待った災害後初のホームゲームでチームを劇的な勝利に導いたニューオーリンズ・セインツのヒーロー、スティーヴ・グリーソン。それから5年後、すでに選手生活を終えていたスティーヴは「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を告知される。そして同じ頃、妻ミシェルの妊娠も判明。生きている間に我が子に会うことができるか、生まれ来る子を抱き締めることができるかも分からないまま、スティーヴは我が子に残すビデオダイアリーを撮り始める。
 

かんそう

ALS(筋萎縮性側索硬化症)といえば、2014年に流行ったアイス・バケツ・チャレンジを思い出す人も多いだろう。ALSは脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロン(運動神経細胞)が侵される病気で、きわめて急速に進行し、半数ほどが発症後3年から5年で呼吸筋麻痺に陥る。知覚神経や自律神経は侵されないため、五感、記憶、知性を司る神経には障害が起きない。意識や知覚は鮮明なまま、身体の自由が奪われ、出来ないことが増えていく。目が覚めるたび、昨日出来ていたことが今日出来なくなっているかもしれない恐怖と闘う。あまりにも残酷だ。その苦しみは如何許りかと、心が痛む。
本作は父と子の、そして家族の壮大な愛の物語だ。しかし映し出されるのは、闘病を支える夫婦愛といった綺麗事だけでない。日に日に身体能力が衰えていく過酷な現実、打ちのめされて慟哭する妻、排泄の制御すらままならず苦悩する姿や、介護する側される側の日々の苛立ちがありのまま、赤裸々に描かれている。芝居や脚色は一切ない。人がその生を全身全霊で生きようとする姿を、その苦悩もろとも目の当たりにして胸が詰まるが、たくさんのものを得たように思う。この素晴らしいドキュメンタリーが持つ力強いメッセージが、大きな感動とともに世界中に拡がることを願いつつ。