銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ファースト・マン

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-09
 

うんちく

『セッション』『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞を総なめにしたデイミアン・チャゼル監督が、人類初の月面着陸に成功したアポロ11号の船長ニール・アームストロングの偉業に迫った伝記ドラマ。リサーチと構想に膨大な歳月が費やされ、ジェームズ・R・ハンセンが記したアームストロングの伝記をもとに、『スポットライト 世紀のスクープ』などのジョシュ・シンガーが脚色。スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務める。主演は『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング、『蜘蛛の巣を払う女』のクレア・フォイ、『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェイソン・クラーク、『アルゴ』のカイル・チャンドラーらが脇を固める。
 

あらすじ

1960年代アメリカ。幼い娘カレンを病気で亡くした空軍のテストパイロット、ニール・アームストロングは、その哀しみを振り切るようにNASAジェミニ計画の宇宙飛行士に応募する。選抜された彼は、家族を伴ってヒューストンに移り住み、有人宇宙センターでの訓練を開始した。そこで指揮官のディーク・スレイトンから、宇宙計画において圧倒的優位にあったソ連すら到達していない月を目指すと告げられる。そして人類初の月面着陸という偉業に向け、アポロ計画が始動する…。
 

かんそう

デイミアン・チャゼルは『セッション』『ラ・ラ・ランド』の監督である。私の鬼門『ラ・ラ・ランド』は置いといて、『セッション』はドラマチックな演出と展開、前に押し出されるようなエネルギーに圧倒されてかなり面白く観た。が、ストーリーそのものはシンプルだ。言葉を選ばずに言うと『ラ・ラ・ランド』と同様に薄っぺらい。しかし今回初めて、チャゼル監督の作品に奥行きを感じたのである・・・!!この物語は終始、死の匂いが漂う。60年代、スマホより性能が劣るコンピューターを積んだ「点火されたブリキ缶」、いわば空飛ぶ棺桶で月を目指したのであるから、それがいかに無謀で身の程知らずな挑戦であったかということを突きつけてくる。冷戦下、ソ連に遅れをとっていた宇宙開発事業の巻き返しを図るため、アポロ計画を強行したアメリカ。莫大な予算が注ぎ込まれることで貧困層からの抗議が巻き起こり、人命を危険に晒すことにも批判が集まり、国内で賛否両論が渦巻いていたことも映し出されている。それでもなおアームストロングを駆り立てた動機や、彼の家族、NASAの同僚たちの物語を掘り下げ、その孤独でストイックな人物像に淡々と迫ることで、叙情詩のような味わい深い人間ドラマとなっている。その息遣いを感じる16ミリフィルムの映像と、IMAXフォーマットで撮影された月面着陸シーンのコントラスト、轟音と静寂、宇宙空間の拡がりと宇宙船の狭さの対比が、観るものを宇宙空間へと誘う。クリストファー・ノーランインターステラー』を手がけたプロダクトデザイナークロウリー、撮影監督サンドグレンの手腕によるものだ。宇宙飛行士とともに宇宙船の閉塞感を味わいながら疑似体験する。自分の身体にもGがかかってるような錯覚を覚えるのだから、この没入感は見事。ああ、Gが、Gが〜と思いながら呑気にポップコーン食べてたけれども、総じて素晴らしい映画体験であった。可能な限り大きなスクリーンで観賞することをお勧めする。