銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】永遠に僕のもの

 劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-45
『永遠に僕のもの』(2018年 アルゼンチン,スペイン)
 

うんちく

1971年、ブエノスアイレスで連続殺人と強盗の罪で逮捕され、その美しい容姿から"死の天使" "黒の天使”と呼ばれた少年をモデルにしたクライムムービー。『トーク・トゥ・ハー』『オール・アバウト・マイ・マザー』などで知られるスペインの巨匠ペドロ・アルモドバルとその弟のアグスティン・アルモドバルらがプロデューサーに名を連ね、世界各国の映画祭で様々な賞を受賞してきたアルゼンチンのルイス・オルテガが監督を務めた。主演は本作が映画デビューとなるロレンソ・フェロ、『オール・アバウト・マイ・マザー』のセシリア・ロスらが共演している。第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、アルゼンチンでは2018年のNo.1ヒットを記録した。
 

あらすじ

1971年のアルゼンチン・ブエノスアイレス。17歳の美しい少年カルリートスは、幼い頃から他人のものを無性に手に入れたがる性分で、呼吸をするように窃盗を繰り返す毎日を送っていた。真面目で善良な両親は、カルリートスの悪事に気付いていながら、やり直せることを信じて息子を転校させる。新しい学校で出会ったラモンという青年に魅了されたカルリートスは、彼に対して挑発的な態度を取り、気を引こうとする。やがて意気投合した二人は、新しい遊びに熱狂するようにさまざまな犯罪に手を染め、次第に蛮行をエスカレートさせていくが...
 

かんそう

「みんなどうかしてる。もっと自由に生きられるのに」とつぶやきながら、踊るように盗み、息をするように殺す。欲しいものは何でも手に入れるカルリートスにはモデルがいて、アルゼンチンでは知らない人はいないと言われている連続殺人犯カルロス・ロブレド・プッチだ。11件の殺人、1件の殺人未遂、17件の強盗、1件のレイプ、1件のレイプ未遂、1件の性的虐待、2件の誘拐および2件の窃盗の罪で終身刑を言い渡され、「黒い天使」と呼ばれた実際のプッチの顔写真を見て、あまりの美しさに驚いた。ロンブローゾが提唱した生来性犯罪者説(犯罪者は犯罪者となることを先天的に宿命付けられた存在であり、その身体上にはある種の特徴が見られるとする)を覆した人物で、その若さと美貌に人々は熱狂し、当時事件に関わった警官にすら「まるでマリリン・モンローのような美しさだった」と言わしめたという。プッチは中流階級の出身で、比較的良い家庭環境で育っている。にも関わらず、このような蛮行に彼を掻き立てたものは何だったのか。作中でその本質に触れられることはないので想像するしかないが、まったく理解できない。しかし彼は確かに実在しているのだから、観るものは戦慄するのだ。冒頭から、エッジの効いた映像と音楽、目眩く展開に目を奪われる。全体を覆う官能的なムード、鮮烈な印象を残すカットのひとつひとつ、さすがスペイン代表を代表する変態紳士ペドロ・アルモドバル大先生のお仕事、やだ大好物!と思っていたんだが、後半が冗長。あそこで終わっておけばよかったのに。終盤は「ニュー・シネマ・パラダイス」のディレクターズカット版で描かれる後日談くらい蛇足。去り際が潔くない、喋りすぎる男はモテないぞ(関係ない)。