銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】エル ELLE

f:id:sal0329:20170903225446p:plain

 劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-48
エル ELLE』(2016年 フランス)
 

うんちく

氷の微笑』などのポール・ヴァーホーヴェン監督が『ピアニスト』などのフランスの大女優イザベル・ユペールを主演に迎え、『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』の原作者フィリップ・ディジャンの小説『oh…』を実写化したエロティック・サスペンス。『ムード・インディゴ うたかたの日々』などのロラン・ラフィット、『潜水服は蝶の夢を見る』などのアンヌ・コンシニ、『おとなの恋の測り方』などのヴィルジニー・エフィラらが共演。第89回アカデミー賞主演女優賞ノミネート、第74回ゴールデン・グローブ賞、第42回セザール賞で受賞。
 

あらすじ

ゲーム会社のCEOを務めるミシェル。ある日、一人暮らしの自宅に侵入してきた覆面の男に暴行されてしまう。ところが警察に通報することなく、平然と片付けを始め、訪ねてきた息子ヴァンサンと何事もなかったかのように接する。しかしその後も、送り主不明の不審なメールが届き、留守中の自宅に誰かが侵入した形跡が残されるなどの嫌がらせが続く。犯人が身近にいることを察したミシェルは、自らその正体を突き止めようとするが・・・
 

かんそう

まずは、還暦をとうに過ぎているはずのイザベル・ユペールが放つエロスに脱帽する。ハリウッドを騒然とさせてきた鬼才を以ってして「つまり僕らはできるだけ早く、常識を捨て去る覚悟を決める必要があった」と言わしめるほどのストーリーである。自宅で覆面の男に襲われるというショッキングな事件で物語の幕が開けるが、事件の真相に迫るに従いあぶり出されるのは、ミシェルという女性の恐るべき、どこか猟奇的とも言える人間性なのだ。「これほどまでに道徳に囚われない映画に出演してくれるアメリカ人の女優は、ただの一人もいなかった」とヴァーホーヴェン監督が語るように、それを演じきったイザベル・ユペールも怪物だ。人間というおぞましい生き物の深淵を覗くような、そして、深淵もまたこちらを覗いているのだと、ただただ圧倒され、呆然とした。怪作。
 
――「解釈とは、映画から与えられた要素を元に、観客がするものさ。さらに観客は、その解釈が正しいかどうかなんて、確かめる必要もない。たとえば、ミシェルの行動は、幼い頃に父親から受けた心の傷が原因だったなんて、決めつけるような描き方はしたくなかった。彼女の性格や行動が、偏った視点によって捉えられることを避けたかった。すべては単なる可能性だ。それ以上でも、以下でもない。説明すべきはただ一つ、ミシェルの性格のあらゆる側面、それだけだ。彼女の行動はいつも通りだったのか、それとも何かが原因だったのかは、誰にも分からないんだ。」