銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】パリタクシー

映画日誌’23-22:パリタクシー
 

introduction:

『戦場のアリア』で高い評価を得たクリスチャン・カリオンが監督・脚本を手がけた人間ドラマ。パリを舞台に、タクシー運転手とマダムの交流を描く。『フランス特殊部隊 RAID』『戦場のアリア』など俳優としても高く評価され、フランスを代表する大人気コメディアンのダニー・ブーンと、『女はみんな生きている』など女優としても活躍する国民的スターであり、最もキャリアの長いシャンソン歌手でもあるリーヌ・ルノーが共演。『カフェ・ド・フロール』などを手掛けたピエール・コッテローが撮影監督を務めた。(2022年 フランス)
 

story:

パリでタクシー運転手をしているシャルルは、金も休みもない上に免停寸前。人生最大の危機を迎えていた彼のもとに、92歳の女性マドレーヌをパリの反対側まで送るという依頼が舞い込む。身体の自由がきかなくなったため自宅を売り、人生最後を過ごす施設に向かうというマドレーヌ。彼女の願いでパリの街のあちこちに寄り道するうちに、マドレーヌの並外れた過去が明らかになっていく。そしていつしか、2人の間に絆のようなものが生まれ...。
 

review:

面白そうな匂いに引きつけられて何となく鑑賞したので前情報がほとんど無く、タクシーに乗ってきたいろんな客とのアレコレだろうと勝手に想像していたら、一人の乗客と深くつながっていく内容だった。ちなみにスピード狂のタクシー運転手とダメ刑事がコンビを組む話ではない。あ、そんな感じなん・・・と戸惑いつつ、全く予想していなかった一人の女性の物語に引き込まれて面白く観た。
 
終活のため老人ホームに向かうマドレーヌ92歳が、何だかピンチのようだがお金もなければ休みもなく免停ギリギリのシャルル46歳のタクシーに乗る。シャルルが46歳っていうのにちょっと驚いたぜ!56歳に見えるぜ!マドレーヌ嬢がシャルルに頼んであっちこっちに寄り道させながら自分の人生を振り返るのだが、これが驚くほど波乱万丈。パリの街並みと過去が交錯しながら、重曹的なドラマが展開する。
 
刮目すべきは彼女の人生を通して描かれる、近代フランスにおける女性の立場。世界で初めて人権が認められた国だが、「人」とは男性のことで女性は含まれておらず、女性参政権の実現もヨーロッパ諸国に比べかなり遅かった。映画『あのこと』でも描かれたが、フランスで人工妊娠中絶が合法化したのは1975年。それまで女性に選ぶ権利はなく、何をするにも夫の許しが必要だった。マドレーヌの数奇な物語は、女性が権利を求めて闘ってきた歴史なのだ。
 
タクシーで巡るパリの街角とシンクロしながらマドレーヌの数奇な運命が解き明かされるうちに、仏頂面だったシャルルの表情がほぐれ、心を開いていくのがよい。エッフェル塔シャンゼリゼ通り、ノートルダム寺院凱旋門パルマンティエ大通り・・・美しいパリの街並みを旅行している気分になれるので、それだけで充分観る価値がある。最後のオチが少々大げさでご都合主義が過ぎるのが残念だが、素敵な時間だった。
 

trailer: