銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】マイ・プレシャス・リスト

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-69
マイ・プレシャス・リスト』(2016年 アメリカ) 

うんちく

『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』『ミニー・ゲッツの秘密』のベル・パウリ―が主演を務め、高い知能指数を持つがコミュニケーション能力に欠ける19歳の心の成長を描く。監督は、プロデューサーとして『さよなら、僕らの夏」』などを手掛け、本作が長編映画初監督作品となるスーザン・ジョンソン。『ホリデイ』『マイ・インターン』などのヒット作を手掛けてきたスザンヌ・ファーウェルがプロデューサーに名を連ねる。『プロデューサーズ』などのネイサン・レイン、TVドラマ「イン・トリートメント」のガブリエル・バーンらが共演。

あらすじ

ニューヨークのマンハッタンで暮らす19歳のキャリーは、IQ185でハーバード大学飛び級で卒業した天才だが、仕事にも就かず、友人も作らず、家にこもって読書ばかりしている。ロンドンにいる父親から感謝祭を一緒に過ごすことができないと連絡があり失望していたキャリーに、唯一の話相手であるセラピストのペトロフはリストを渡し、そこに書かれた6つの課題を実行するよう告げる。半信半疑ながらも、ペットを飼い、昔好きだったチェリーソーダを飲み、デートの相手を探そうとするが...

かんそう

この作品には、サリンジャーの「フラニーとゾーイ」がシンボリックに登場する。私は代表作「ライ麦畑でつかまえて」すら読んでおらず、思春期に”サリンジャー”という試金石を踏んでいない。しかし私の本棚には短編集「ナイン・ストーリーズ」があり、それは「バナナフィッシュにうってつけの日」が収められているからという中二病的理由なのでまともに読んでいない。というわけで、「フラニーとゾーイ」について調べてみた。グラス家の末娘フラニーは周囲の人たちのささやかなエゴが許せない。週末を恋人と過ごしていても気取り屋の恋人に苛立ちを募らせ、いちいち食ってかかっては自己嫌悪を繰り返す。終いにはレストランで気を失い、デートを台無しにして、トイレに駆け込み宗教書「巡礼の書」を読みふける、と。そしてそんな妹を諭そうとする兄のゾーイのお話である。思春期の青年が直面する自意識との対峙という普遍的なテーマを扱っており、この本と多感な時期に出会うことは、もしかすると大事なことなのかもしれない。フラニーは”こじらせ女子”の見本だが、本作の主人公キャリーの早逝した母親はおそらく、人並み外れて賢い我が娘の行く末を案じてこの本を与えたのだろう。ママの不安は的中し、キャリーは見事なIQ185のこじらせ女子になった。パパ、セラピスト、教授、新しい出会い、揃いも揃って絶妙な塩梅のクソ野郎が登場し、知性と良識に溢れる自意識の塊キャリーを苛立たせる。そんなキャリーが行き着いた場所は、という物語である。社会と接点を持とうとしないニートが外界に出て成長する、という単純な物語ではない。それを理解するには「フラニーとゾーイ」の予備知識が必要だったと気付いたのは、ずっと後のことであった・・・。先に言うてや。しかし何はともあれ、傑作とは言い難いがそこそこ楽しめた。キャリーを演じたベル・パウリーがキュートで愛らしく、クリスマスや大晦日が近付く冬のマンハッタンの街並みを映し出した映像が素敵。ふと、人恋しくなったりしつつ、この冬はサリンジャーを読んでみようという気持ちになっている。