銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】バグダッド・スキャンダル

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-72
バグダッド・スキャンダル』(2017年 デンマーク,カナダ,アメリカ)

うんちく

元国連職員マイケル・スーサンが自身の体験を元に執筆した小説「Backstabbing for Beginners」を原作に、国連史上最悪のスキャンダルとなった「石油・食料交換プログラム」の汚職事件を描いたポリティカル・サスペンス。『ストックホルムでワルツを』などのペール・フライが監督を務め、『ダイバージェント』シリーズや『アンダーワールド』などのテオ・ジェームズが主演のほか製作総指揮も務めた。『ガンジー』で第55回アカデミー賞主演男優賞を受賞した名優ベン・キングズレー、名作『ブリット』などのジャクリーン・ビセットらが共演している。

あらすじ

2002年。24歳のアメリカ人青年マイケルは、念願叶って国連事務次長の特別補佐官に任命され、国連が主導する”オイル・フォー・フード”「石油・食料交換プログラム」を担当することになった。それは、クウェート侵攻に対するイラクへの経済制裁の影響で困窮するイラクの民間人を救うための人道支援計画で、国連の管理下でイラクの石油を販売し、食料に変えてイラクの市民に配給するというものだ。しかしマイケルが目の当たりにした実態は、サダム・フセイン自身がプロジェクトに関与しており、国連を中心とした世界各国の企業や官僚機構が利権をめぐって深く関わっている巨額の汚職事件であった...

かんそう

あまり注目していなかったが、「A24」が製作したと知り俄然興味が湧いた。A24はエッジの効いた作家性の強い作品を次々と世に放ち、2012年の設立からわずか6年で映画界に旋風を巻き起こした気鋭の独立系配給会社だ。彼らが手掛けた話題作と言えば枚挙にいとまがないが、近年では『ムーンライト』『20センチュリー・ウーマン』『パーティで女の子に話しかけるには』などの突出した作品で私のようなマニアの心を鷲掴み。つい最近では『アンダー・ザ・シルバーレイク』に唸らされ、年内には『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』『イット・カムズ・アット・ナイト』『へレディタリー/継承』の公開が控えており、身悶えるほど楽しみである。
さて、A24についてお分かりいただけたところで本題だが、国連史上最悪のスキャンダルを描いた骨太な作品である。緊張感あふれるスリリングな展開に引き込まれるが、過剰な演出を避けた淡々とした語り口、その真摯な映画作りに好感がもてる。脚本が優れているのだろう、政治作品にありがちな「説明のための」冗長な会話の応酬が少なく、人物の行動や表情、端的なフレーズで背景や状況を察することが出来る。最後まで中弛みすることなく、非常に興味深く観た。この”オイル・フォー・フード”は総額640億ドル(当時の為替で7兆3600億円超)という巨額の予算のため賄賂や不正が横行し、人道支援を喰いものにした汚職は少なくとも18億ドル以上と言われている。しかし国連が調査協力を拒んだだめ、現在も全貌が明らかになっていないそうだ。イラク戦争の開戦から15年が経った今でも、イラクの人々の苦難は続いている。フセイン独裁政権からは解放されたが「フセインよりも厄介なやつら(米軍)がやってきた」、そしてその後のイラク治安部隊や軍による人権侵害は凄惨を極め「まだ米軍の方がマシだった」と人々に言わしめた。破壊しつくされたイラクは大量の犠牲者と避難民を生み、情勢は不安定なままだ。日本政府は、米国の「フセイン政権が大量破壊兵器の開発を続けている」という嘘とイラク戦争を支持し、米軍の物資や人員の輸送を支援し自衛隊を派遣した。少なくとも我々は関与していたのだ。世界で起きている悲劇に無関心であってはいけないと改めて思う。