銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】アド・アストラ

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-51
『アド・アストラ』(2019年 アメリカ)
 

うんちく

ブラッド・ピットトミー・リー・ジョーンズが共演し、太陽系の彼方で消息を絶った父親を捜索するため宇宙へと旅立つ宇宙飛行士を描いたSFサスペンス。『エヴァの告白』などのジェームズ・グレイが監督を務め、撮影は『インターステラー』などにも参加していたホイテ・バン・ホイテマ。ブラッド・ピット率いるプランBエンターテインメントが製作に名を連ね、ピットはプロデューサーも務めている。『ラビング 愛という名前のふたり』などのルース・ネッガ、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどのリヴ・タイラー、『ハンガー・ゲーム』シリーズなどのドナルド・サザーランドらが出演。
 

あらすじ

時は近い未来。地球外知的生命体の探求に人生を捧げ、著名な宇宙飛行士である父クリフォードの姿を見て育ったロイ・マクブライドは、自らも宇宙飛行士の道を選ぶ。しかし、その父は地球外生命体の探索船に乗り込んだ16年後、地球から43億キロ離れた海王星付近で消息を絶っていた。時が流れ、優秀な宇宙飛行士として活躍するロイに、軍上層部から父クロフォードが生きているという情報がもたらされる。さらに、父が進めていた「リマ計画」が太陽系を滅亡させる危険を孕んでいることを知ったロイは、軍の依頼を受けて宇宙へと旅立つが...
 

かんそう

第76回ベネチア国際映画祭でお披露目されると、世界中のメディアや批評家たちは軒並み高評価を送り、「ブラッド・ピット史上最高の演技」と称賛が集まったそうだ。そんな前評判を眺めているうちに、「よくもまあ、こんな難しいオファーを受けたものだ。」という記事を見つけて椅子から転がり落ちそうになった。優れた映画プロデューサーでもあるブラッド・ピット率いる”PLAN B”が製作してるんだから当たり前だし、そんなことは映画ファンなら誰でも知っている。PLAN Bは『それでも夜は明ける』『ムーンライト』『バイス』など、ここには書ききれないほどたくさんの優れた、且つエッジの効いた作品を世に送り出している。PLAN Bの作品だと言われれば、それだけで期待に胸が膨らむし、PLAN Bが宇宙をどう描くのか興味津々だった。舞台は少し先の未来。観光や商用で月に行くことが当たり前の世界になっており、月へはエアポートから出発する。運行はバージン航空だったりして、宇宙船や宇宙服の仕様などは現在と変わらず、妙にリアリティがある。とは言え、全体的にSF的なエンターテイメント性は低め。ホイテ・バン・ホイテマによるフィルム撮影の映像美も手伝って、硬質な手触りの、哲学的で味わい深い作品だった。任務中に行方不明になった父を追う息子と言えば『地獄の黙示録』を思い出す。『2001年宇宙の旅』+『地獄の黙示録』+『ゼロ・グラビティ』とはよく言ったものだ。父の足跡をたどりながら、自己と向き合う息子の成長譚。その移ろいゆく心情を、つぶさに体現してみせたブラッド・ピットの演技が実に見事。タイトルの「アド・アストラ」は「to the stars」を意味するラテン語だ。星の彼方、その先にたどり着いた場所でプラッド・ピットが見せた表情に、長い長い旅路のすべてが集約されている気がした。記憶に残る良作。