銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】イエスタデイ

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-55
『イエスタデイ』(2019年 イギリス)
 

うんちく

トレインスポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイル監督と、『ラブ・アクチュアリー』などの脚本家リチャード・カーティスがタッグを組み、自分以外は「ザ・ビートルズ」の存在を知らないパラレルワールドになってしまったミュージシャンの姿を描いたドラマ。新星ヒメーシュ・パテルが主演を務め、『シンデレラ』『マンマ・ミーア! ヒア・ウィ・ゴー』などのリリー・ジェームズ、『ゴーストバスターズ』などのケイト・マッキノンのほか、世界的人気アーティストのエド・シーランが本人役で出演する。
 

あらすじ

イギリスの小さな海辺の町サフォーク。シンガーソングライターのジャックは、幼なじみで親友のエリーの献身的に支えられてきたがまったく売れず、音楽で成功する夢を諦めようとしていた。そんなとき、世界規模で12秒間の大停電が起き、それが原因でジャックは交通事故に遭遇。昏睡状態から目覚めてみると、史上最も有名なバンド、「ザ・ビートルズ」が存在しない世界になっていた。彼らの名曲を覚えているのはジャックだけになってしまったが...
 

かんそう

トレインスポッティング』の斬新な映像と音楽で世界にインパクトを与え、『スラムドッグ$ミリオネア』で作品賞を含むアカデミー賞8部門に輝いたダニー・ボイル監督と、『ラブ・アクチュアリー』『ブリジット・ジョーンズの日記』などユニークな設定のロマンチック・コメディを世に送り出してきた脚本家リチャード・カーティスが初めて手を組んだのよ。ダニー・ボイルの音楽とリンクしたスタイリッシュな映像が大好物で、毎年クリスマスイブに1人で泣きながら『ラブ・アクチュアリー』を観ていた身としては、公開が楽しみ過ぎて楽しみ過ぎて、勝手に盛り上がり過ぎた。もうちょっとダニー・ボイルとリチャード・カーティの化学反応起きて欲しかった、というのが正直なところだが、それは欲張り過ぎというものだろう。リチャード・カーティスが紡ぎ出す優しい世界は人々を笑顔にし、ダニー・ボイルが織り成す魅力的な映像世界は我々を惹きつけてやまない。そしてビートルズは偉大。ビートルズのことはもちろん知っているし、ビートルズの珠玉の名曲の数々はいくらでも聴いたことはあるが、特別にファンというわけではない。それでも、物語の中でビートルズのナンバーを初めて聴く人々と同じ高揚感を味わいつつ、ビートルズの音楽が持つ圧倒的な力を思い知ることができた。路上、ライブハウス、ウェンブリー・スタジアムに至るまで、ライブ演奏での撮影を貫いたダニー・ボイルのこだわり、ジャックを演じたヒメーシュ・パテルの優れたパフォーマンスの賜物でもある。ジャックのオリジナルソングは誰が聴いてもイケてないし、何なら見た目も野暮ったくて冴えない。そんなジャックを金の卵として磨き上げ、スターダムに押し上げようとする音楽業界の面々が描かれるが、それはアーティストの存在よりマーケティングやイメージ戦略が先行し、楽曲の良し悪しより売り方次第、という現代の音楽シーンに対するアイロニーを孕んでいて興味深い。そして俳優としてのエド・シーランがいい仕事してた。当初はコールドプレイのクリス・マーティンのキャスティングを想定していたらしいのだけど、エド・シーランで本当に良かったと思う。クリス演技出来なさそう。でもって、ビートルズのフォロワーだの再来だの言われているOASISの存在まで消えていたのには思わず笑ってしまった。他にも音楽ファンの心をくすぐる小ネタがたくさん仕込まれていて、とても素敵な作品だったよ!たぶん。