銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】バイス

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-24
バイス』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

アダム・マッケイ監督、クリスチャン・ベイルスティーヴ・カレルなど『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のスタッフとキャストが再集結し、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務め、9・11後のアメリカをイラク戦争へと導いたディック・チェイニーを描いた社会派ドラマ。『アメリカン・ハッスル』などのエイミー・アダムス、『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェルナオミ・ワッツアルフレッド・モリナらが共演。話題作を次々と世に送り出すプランBが製作に加わり、ブラッド・ピットもプロデューサーとして名を連ねる。第91回アカデミー賞で作品賞ほか8部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。
 

あらすじ

1960年代半ば。酒癖の悪い電気工ディック・チェイニーは、後に妻となる恋人リンに激怒されたことをきっかけに政治の道を志す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表と裏を学んだチェイニーは、やがて権力の虜となり、頭角を現していく。大統領首席補佐官、国防長官の職を経て、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任し“影の大統領”として振る舞い始めた彼は、2001年9月11日の同時多発テロ事件では大統領を差し置いて危機対応にあたり、あの悪名高きイラク戦争へと国を導いていくが…
 

かんそう

副大統領は「大統領の死を待つのが仕事」などと揶揄されることもある。その目立たない地位を逆手にとって、傀儡のごとく大統領を操って強大な権力をふるい、無意味な戦争を引き起こして膨大な数の犠牲者を出し、アメリカと世界の歴史を根こそぎ塗り替えた“影の大統領”がいた。第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュの下で副大統領を務め、「アメリカ史上最強で最凶の副大統領」と呼ばれたディック・チェイニーだ。原題の「VICE」は、”vice-president(副大統領)” を指すだけでなく、単独では「悪徳」「邪悪」という意味を持つ。果たして前半は面白いんだなぁ。フェイクエンドロールとか最高だし、さすがマッケイ監督小細工うまいわーと感心していると、如何せん後半で失速してしまう。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でも中弛みしたことを思い出した。なんで毎回中弛みするんや。同じくジョージ・W・ブッシュ政権下の裏側を描いた『記者たち 衝撃と畏怖の真実』のほうが面白かったなどと不届きなことを思いながら観た。が、約20キロにおよぶ体重の増量、一回5時間近くを要する特殊メイクを施して、約半世紀にわたるチェイニーの軌跡を体現したクリスチャン・ベールはもちろん、ラムズフェルド国防長官(スティーヴ・カレル)、ジョージ・W・ブッシュ大統領(サム・ロックウェル)、パウエル国務長官(タイラー・ペリー)、ライス大統領補佐官(リサ・ゲイ・ハミルトン)のそっくりさん度が一見の価値有りなので良しとする。そういう意味では実に面白い作品であるし、存命の人間をこれだけコキ下ろせるアメリカの映画って凄い。メディアが政治や権力に迎合する世の中において、映画や音楽は最後に残されたアメリカの良心なのかもしれない。