銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】アンダー・ザ・シルバーレイク

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-68
アンダー・ザ・シルバーレイク 』(2018年 アメリカ)

うんちく

『イット・フォローズ』で世界的な注目を集めたデビッド・ロバート・ミッチェル監督が、ロサンゼルスの街シルバーレイクを舞台に描くサスペンス。失踪した美女の行方を探すうちに、街に潜む陰謀を解明することになるオタク青年の顛末を映し出す。主演は『ハクソー・リッジ』『沈黙 サイレンス』などのアンドリュー・ガーフィールドエルヴィス・プレスリーの孫で、『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』などに出演しているライリー・キーオが謎の美女を演じる。

あらすじ

セレブやアーティストたちが暮らすロサンゼルスのシルバーレイク。都市伝説や陰謀論をこよなく愛するゲーム好きのオタク青年サムは、成功を夢見てこの街に暮らしているが、仕事もなく家賃すら滞納している。ある日、向かいに越してきた美女サラに一目惚れした彼は、何とかデートの約束を取り付けるも、彼女は忽然と姿を消してしまう。サラの行方を捜すうち、陰謀の匂いを嗅ぎ取ったサムだったが、いつしかロサンゼルスの裏側でうごめく闇に飲み込まれていく...

かんそう

「あのロサンゼルスの丘に建っている屋敷の中では、一体何が起きているのだろうか?」という疑問が頭から離れなくなったデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督が書き上げた脚本は、ロサンゼルスがいかに奇妙で美しくて恐ろしい街であるかということを描いてきた巨匠たちへのオマージュ、80,90年代のポップ・カルチャーへの偏愛が散りばめられた幻想的な映像、大仰に鳴り響くクラシカルで壮大な映画音楽、細部までこだわった美術や衣装に彩られた怪作となった。荒唐無稽でただただ面白かった。140分の長尺だが、整合性などまるでない予測不能な展開に呆れ驚き、不条理で摩訶不思議な白昼夢に引き込まれてしまった。確かにデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』のようでもあるし、つげ義春が描く悪夢のようだなぁ、と思いながら観ていた。広告や映画、ヒット曲に隠された秘密の暗号やメッセージの解読に取り憑かれてしまうサムと一緒に、巧妙に作り上げられたハリウッドの光と影を彷徨う。犬殺し、ホーボーのサイン、ホームレスの王、フクロウのキス、音楽業界を牛耳る謎の老人・・・。ニルヴァーナカート・コバーン、ドアーズのジム・モリソンら“27クラブ”のメンバーのアイコンが作中に登場する。悪魔と契約して成功した者は27歳で命を落とすが、27歳を過ぎても芽が出なければ”選ばれし者”ではなく、サムもその一人であると示唆する。シルバーレイクの水底には、夢破れた若者たちの屍が沈んでいる。そしてその下には、大富豪にしか行けない高次元の地下帝国があるのかもしれない。人生がうまくいかないのは、巨大な秘密組織が仕掛けた陰謀かもしれない。夢想と現実が幾層にも重なり合い、たくさんの謎を孕んだ物語は、いま目に見えている世界が真実なのか?その選択は果たして自分の意思によるものなのか?と我々に問いかけてくる。