銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ヒトラーを欺いた黄色い星

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-50
ヒトラーを欺いた黄色い星』(2017年 ドイツ)
 

うんちく

第2次世界大戦時、ナチス政権下のベルリンで終戦まで生き延びたユダヤ人たちの実話を、生還者の証言を交えながら映画化。彼らがどのようにして身分を隠し、ゲシュタポや密告者の目をすり抜けながら生き延びたのかを描き出す。テレビ向けの長編ドキュメンタリーなどを制作してきたクラウス・レーフレが監督・製作・脚本を手がけ、巨匠テレンス・マリックとのコラボレーションで知られるイェルク・ヴィトマが撮影監督を務めた。『愛を読むひと』『ブリッジ・オブ・スパイ』などのマックス・マウフ、『あの日 あの時 愛の記憶』などのアリス・ドワイヤーらが出演。
 

あらすじ

第二次世界大戦時、ナチス政権下ドイツの首都ベルリン。ユダヤ人への迫害は日に日に激しくなっていた。咄嗟についた嘘で運良く収容所行きを免れ、大胆にも出征を控えるドイツ人兵士に成りすましてベルリン市内の空室を転々としていたツィオマは、器用な手先を生かしてユダヤ人の命を救うための身分証偽造を行っていた。友人のエレンとともに戦争未亡人を装って外出していたルートは、隠れ家を失い路頭を彷徨っていたが、ドイツ国防軍のヴェーレン大佐の邸宅でメイドの仕事を得る。母親の再婚相手がドイツ人だったため家族の中で唯一、ユダヤ人と識別するための黄色い星をつけなくてはいけなかった16歳の少年オイゲンは、活動家の家に引き取られ、ヒトラー青少年団の制服を着て身元を偽り、反ナチスのビラ作りに協力。両親を亡くし、知り合いのユダヤ人一家と同居していた17歳の孤児のハンニは、髪をブロンドに染めて別人になり、映画館で知り合った男性の母親の家に匿われていた。戦争の終わりが近づくなか、ベルリンに侵攻したソ連兵が彼らの前に現れ...
 

かんそう

第二次世界大戦下、ナチスに虐殺されたヨーロッパのユダヤ人は約600万人と言われている。1943年6月、ナチスの宣伝相ゲッベルスは首都ベルリンからユダヤ人を一掃したと正式に宣言した。しかし実際には7000人ものユダヤ人がベルリン市内に潜伏し、1500人が終戦まで生き延びている。彼らに関する緻密な調査を行ったクラウス・レーフレ監督は、そこから最も興味深い4つのストーリーを選び出し、この驚くべき歴史の事実を解き明かすドラマを編み出した。テレビのドキュメンタリーと同様の手法で、役者によって再現されたドラマに当事者のインタビューや実際の映像が挿し込まれる。映画としては珍しい構成かもしれないが、リアリティと臨場感が増し、本物だけが持つ説得力と重みが生まれている。生々しく伝わってくる息遣いに強く心を揺さぶられながら、興味深く観た。この数年はナチスホロコーストに関する映画が盛んに制作されている。理由のひとつは2007年に強制労働の被害者に対する補償が完了し、ドイツにおいてナチスがようやく「歴史」として認識されるようにになったことだと言われている。また、欧州のほとんどの国でナチズムの廃止・排除が法令化されているにも関わらず、現実にはネオナチの動きが世界的な拡がりを見せており、この不穏な世界情勢に対する漠然とした不安が、たくさんの作品を生む背景になっているのかもしれない。それらは様々な角度と切り口でナチズムとその時代が語られるが、本作では、ナチス政権下の市井におけるユダヤ人とドイツ人の交流が非常に印象深く描かれている。戦争が人間を狂気へと駆り立てる一方、どんな悲惨な状況にあっても、人間性を保ち続けることは出来るのだと訴える。戦争という愚かしい歴史の裏と表を知る意味でも、観ておきたい作品のひとつ。