銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】女王陛下のお気に入り

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-10
 

うんちく

『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』などで評価されたギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督による、18世紀初頭のイングランド王室を舞台にした人間ドラマ。女王の寵愛をめぐる2人の女性の愛憎劇が描かれる。『ロブスター』に続く出演となるオリヴィア・コールマンが主演を務め、『ナイロビの蜂』などのレイチェル・ワイズ、『ラ・ラ・ランド』などのエマ・ストーン、『ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』などのニコラス・ホルトらが出演。2018年・第75回ベネチア国際映画祭ゴールデン・グローブ賞で各賞を獲得し、第91回アカデミー賞では最多の10部門ノミネートを果たしている。
 

あらすじ

18世紀初頭、アン女王が統治するイングランド。フランスとの戦争下にあったが、女王の幼馴染で、イングランド軍を率いるモールバラ公爵の妻サラが、病弱で世間知らずな女王を意のままに操り権力を掌握していた。そんななか、サラの従妹だと名乗るアビゲイルが宮廷に現れる。サラに頼み込み、召使として雇われることになったアビゲイルだったが、上流階級から没落した彼女は貴族として返り咲く機会を虎視眈々と狙っていた…。
 

かんそう

何てったってヨルゴス・ランティモス監督だからな。と心して観る。『ロブスター』『聖なる鹿殺し』で観る者を不可解でやるせない気持ちにさせてくれたヨルゴス・ランティモス監督だからな。クセが強い。今回はウサギですか、そうですか。アン王女が失った17人の子供と同じ数の。って、双子を含め6回の流産、6回の死産を経験し、産まれてきた子も全て幼くして命を落としたとは。世継ぎを切望されていただろうに、想像を絶する強烈なトラウマを抱え、ほとんど狂気に近かったのではないだろうか。そんな女王の寵愛をめぐって、絢爛華麗な宮廷を舞台に繰り広げられる熾烈な女の権力争い。不気味な音楽、奇妙なダンス、仰々しい立ち振る舞い。どこかパンキッシュでアナーキーなモノトーンの衣装が独特の世界観を創り出す。カツラをかぶり白塗りの化粧を施した男たちは、舞台袖でおどける道化のようだ。教養のない女王の気紛れやヒステリーに終始振り回されて、うんざりする。滑稽で下劣で醜悪なる人間のあられもない姿を、超広角レンズの映像がいびつに映し出す。まるで見世物のようであるが、どこかシュールで美しい。時代劇とは思えないカメラワークや演出が実に新鮮だった。冒頭に書いたが、ヨルゴス・ランティモス監督の作品であるということを心して観ないと、きっと面喰らう。しかし面食らいつつも、楽しめるだろう。笑えないブラックユーモアが散りばめられた脚本が秀逸。そしてこの壮大なコメディーを怪演したオリビア・コールマン、レイチェル・ワイズエマ・ストーンというキャスティングが絶妙に素晴らしいのである。最後のイングランド王国スコットランド王国君主で、最初のグレートブリテン王国君主及びアイルランド女王をめぐるこのスキャンダラスで不条理な物語は、じっとりと重苦しい、不穏なムードで幕を閉じる。やっぱりヨルゴス・ランティモス監督だった。