銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】マイ・ブックショップ

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-19
『マイ・ブックショップ』(2018年 スペイン,イギリス,ドイツ)
 

うんちく

死ぬまでにしたい10のこと』などで知られるイザベル・コイシェ監督が、イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞したペネロピ・フィッツジェラルドの小説を映画化。2018年のスペイン・ゴヤ賞では見事、作品賞・監督賞・脚色賞と主要部門を受賞した。『メリー・ポピンズ リターンズ』のエミリー・モーティマーが主演を務め、『ラブ・アクチュアリー』などのビル・ナイ、『しあわせへのまわり道』などのパトリシア・クラークソンが共演。また、作中に登場するレイ・ブラッドベリ著「華氏451度」を映像化したフランソワ・トリュフォー監督『華氏451』で主演を務めたジュリー・クリスティが本作のナレーションを務めている。
 

あらすじ

1959年のイギリス、海辺の田舎町。戦争で夫を亡くしたフローレンスは、書店が一軒もない町で、夫との夢だった書店を開業しようとする。しかし保守的なこの町で女性の開業はまだ珍しく、住民たちの態度は冷ややかだった。そんななか、40年以上自宅に引きこもり読書に耽っていた老紳士ブランディッシュ氏と出会い、彼に支えられて何とか書店を軌道に乗せていく。ところが、彼女の商売を快く思わない町の有力者ガマート夫人が、書店を潰そうと画策し...
 

かんそう

イザベル・コイシュは『死ぬまでにしたい10のこと』で有名だが、個人的には『あなたになら言える秘密のこと』のほうが好きである。それで、イザベル・コイシュの新作だからと非常に楽しみにしていたのだが、のちに思い出したことには、私が好きなのはサラ・ポーリーだった。『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』で主演を務め、映画監督として『テイク・ディス・ワルツ』などの優れた作品を世に送り出した女優である。私が心待ちにしていたのはサラ・ポーリー作品だったという衝撃の事実はおいといて、全体の雰囲気がとても素敵な作品である。1950年代イギリスの、素朴な港町の風景が美しく、ファッションやインテリア、本の装丁、雑貨やお菓子など、作品を彩る全てがとても可愛らしい。しかし、なぜ彼女が「オールドハウス」にこだわって、そこで書店を開きたいのか、核心となる部分が描かれないので説得力に欠け、共感できないまま淡々と物語が展開していくので、フラストレーションとともに睡魔がそっと忍び寄り、いつしか深い闇に落ち・・・はっと気が付いた時には、フローレンスが保守的で閉鎖的な村社会の中で窮地に立たされてた。おいちゃん、見守ってあげられなくてごめんよ・・・。それにしても相変わらず、ビル・ナイおじさんがいい味出してた。フローレンスとビル・ナイ演じる老紳士を結びつけるのが、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」である。本の所持や読書が禁じられた近未来を描いた作品で、そのタイトルは紙が燃え始める温度(華氏451度≒摂氏233度)を意味しているそうだ。この本が示唆するところを理解しておくと、もっと楽しめるかもしれない。