銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】世界の涯ての鼓動

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-43
『世界の涯ての鼓動』(2017年 イギリス)
 

うんちく

パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』がカンヌで高く評価され、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』や『Pina/ピナ・バウシュ 躍り続けるいのち』などのドキュメンタリーが世界的に絶賛されるなど、映画史に残る傑作を生み出し続けるヴィム・ヴェンダース監督。世界中から敬愛されてきた名匠が、運命的に出会った男女が再会を胸にそれぞれの役割を全うしようと苦心するさまを描く。『つぐない』『X-MEN』シリーズなどのジェームズ・マカヴォイ、『リリーのすべて』『光をくれた人』などのアリシア・ヴィキャンデルが出演。
 

あらすじ

フランス・ノルマンディーの海辺にあるホテルで出会い、わずか5日間で恋におちたダニーとジェームズ。互いが生涯の相手であることに気付くが、生物数学者のダニーはグリーンランドの深海に潜り地球上の生命の起源を解明する調査を控え、そしてMI-6の諜報員であるジェームズは東ソマリアに潜入しテロを阻止する危険な任務が待っていた。互いに務めを果たすため別れた2人だったが、ジェームズはソマリア入国後ジハード戦士に拘束されてしまい、ダニーは潜水艇が海底で操縦不能に陥ってしまい、それぞれが極限の死地に立たされてしまう。
 

かんそう

ノルマンディーの美しい浜辺、グリーンランドの広大な海、砂埃が舞い上がる南ソマリアの風景。地球の果て、人間の心の涯てまでを捉えるヴィム・ヴェンダースの圧倒的な映像美で描かれる、壮大な抒情詩。ノルマンディーのホテルで運命的に出会った男女のラブストーリーを軸に物語が展開していくが、彼らはいずれも危険を伴う任務を控えており、それは人類が抱えている課題と深く結びついて、我々に思慮深くあることを求める。ジェームスがダニーに対して「そこにある問題について知り、解決法を探すことができるはずなに、それをしない君は愚かだ」と声を荒げるシーンがある。この作品が持つメッセージのひとつだろう。「愛こそが世界で語られる唯一の言語、かつ唯一の解決法で、いろんな手助けになるものだと私は思っている。」とヴェンダースがインタビューで答えているが、愛の物語を核にすることによって、彼なりの方法で環境問題やイスラム過激派の状況と対峙している。きっと私は、ヴェンダースがこの映画を通して伝えようとしていることの半分も理解していない。あまりにも奥深く、複雑に絡まり合い、幾層にも重なり合ったテーマやメッセージが、空中で散り散りになり、一度観ただけでは、うまく言葉にまとめることができない。それでも心を鷲掴みにされるほど素晴らしく、ヴェンダース作品のなかでも傑作と言えるだろう。ヴィム・ヴェンダースは裏切らない。主演を務めたジェームズ・マカヴォイアリシア・ヴィキャンデルも見事だった。
 
「人間は空や宇宙の惑星に取りつかれているが、地球上の水、大海原は、生命の源。深海には、環境問題を解決するものが多く眠っているかもしれない。なのに、よくわかっていない。その一方で宇宙開発にお金を費やしているが、それはすべて、ばかげた投資に思える」——ヴィム・ヴェンダース
 
イスラム過激派への政治の取り組みは、対話ではなく戦争だった。私たちは人間として、対話で解決する多大な可能性を秘めていると思うが、西側諸国は対話や理解への努力が十分でない。9.11の米同時多発テロ以来、『テロとの戦い』を続け、それによってさらにテロリストを生んできた」——ヴィム・ヴェンダース
 
「私たちはお金を使うほど地球をダメにし、多くの人たちが置き去りにされ、成長の恩恵を受けない。そうした人たちが反乱を起こし、過激化する。(イスラム過激派の)若者の多くは基本的に、他に選択肢がないままジハードに従ったりして、悪い方向へと導かれている。西側諸国がイラク戦争に費やしたお金がもしインフラ構築に使われていたら、イスラム過激派もついえていたのではないか。仕事も作り出せただろうし、病院や学校などを作ることもできただろう」——ヴィム・ヴェンダース