銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ロケットマン

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-46
ロケットマン』(2019年 イギリス)
 

うんちく

「Your Song/ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」などで知られ、グラミー賞を5度受賞したイギリス出身の伝説的ミュージシャン、エルトン・ジョンの自伝的映画。輝かしい功績で知られる彼の、成功の軌跡と苦悩に満ちた半生を描く。エルトン自身が製作総指揮を手掛け、『ボヘミアン・ラプソディ』の最終監督を務めたデクスター・フレッチャーが監督を務めた。『キングスマン』シリーズのマシュー・ボーン監督が製作に名を連ねている。主演は『キングスマン』シリーズで知られる英若手俳優タロン・エガ―トン。『リヴァプール、最後の恋』などのジェイミー・ベル、『ジュラシック・ワールド』シリーズなどのブライス・ダラス・ハワードらが脇を固める。
 

あらすじ

イギリス郊外ピナー。けんかの絶えない不仲な両親のもと育った少年レジナルド・ドワイトはいつも孤独だったが、天才的な音楽センスを見出され、国立音楽院に入学する。寂しさを紛らわすようにロックに傾倒した少年は、ミュージシャンになることを夢見て古臭い自分の名前を捨て、エルトン・ジョンという新たな名前で音楽活動を始める。そして、後に生涯の友となる作詞家バーニー・トーピンと運命的な出会いを果たし、二人で作った「Your Song/ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」のヒットによって、一気にスターダムを駆け上がっていくが...
 

かんそう

オープニングからフルスロットルで、エルトンおじさん登場の出オチ感すごい。っていうかずるい。実のところ、取り立ててエルトン・ジョンのファンではないし、全盛期をリアルタイムで知らないので、私にとってのエルトン・ジョンは、エリザベス女王からナイトの称号を授与された、ちょっと小太りの派手なおじさん。『キングスマン: ゴールデン・サークル』に登場する楽しいおじさん。そういえば『ラブ・アクチュアリー』で再起したミュージシャンのビリーがエルトンのパーティーにお呼ばれしていたなぁ、とか。しかし実際のところ、グラミー賞に5回輝き、シングルとアルバムの総売り上げは3億枚を超え、ミュージシャンの歴代セールスランキングでは、ビートルズエルヴィス・プレスリーマイケル・ジャクソン、マドンナに次いで5位に名を連ねているエルトンおじさん、音楽史に名を残す偉大なミュージシャンなのである。そんなエルトンの半生を描いた本作を観るにあたって、エルトンのことを知らなくても全く問題ない。観終わる頃には、エルトンおじさんのことを大好きになっているからだ。愛を求め、だれかに抱きしめられたかった孤独な少年レジーが、自分自身を抱きしめられるようになるまで。輝かしい功績の光と陰を余すところなく描き出し、エルトンを演じたタロン・エガートンが吹き替えなしで美声を披露しているところも見どころ。ちなみに、映画『ボヘミアン・ラプソディ』で、フレディにロールスロイスのなかで解雇されたクイーンの初代マネージャー、ジョン・リードが重要な人物として登場する。エルトンの元恋人、そして彼を長年にわたってサポートしたマネージャーでもあったからだ。作中ではビジネスに徹する冷酷な人物として描かれているが、ジョン・リードとの恋愛をはじめ、望むような愛を得られず、頂点を極めた者の宿命との闘いのなかでさまざまな依存症に陥り、追い詰められていくエルトンの姿に胸が痛くなる。ただ、エルトンの人生にバーニー・トーピンがいたことに心が救われる。エルトンと作詞家バーニーは今世紀を代表する名ソングライター・コンビであり、まるで兄弟のように信頼し合う一番の親友でもあった。彼なくしてエルトンの成功はなかったであろうし、二人の友情と絆の物語としても見応えがある。繰り返しになるが、例えエルトンを知らなくても、充分に楽しめる良作であった。