銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】リチャード・ジュエル

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映画日誌’20-03:リチャード・ジュエル
 

introduction:

1996年のアトランタ爆破テロ事件を題材にしたサスペンスドラマ。巨匠クリント・イーストウッドが、雑誌『ヴァニティ・フェア』に寄稿された記事『American Nightmare: The Ballad of Richard Jewell(アメリカの悪夢:リチャード・ジュエルのバラード)』を原作に、実在する警備員リチャード・ジュエルの受難を描く。『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェル、『アバウト・シュミット』などのキャシー・ベイツ、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』などのポール・ウォルター・ハウザーらが出演。(2019年 アメリカ)
 

story:

1996年7月27日、オリンピック開催中のアトランタで、警備員のリチャード・ジュエルが公園で爆発物を発見する。マニュアルに従ったジュエルの行動によって多くの命を救うことができたものの、それでも2人の死者と100人以上の負傷者を出す大惨事となった。一時はメディアによって英雄視されたジュエルだったが、FBIは爆発物の第一発見者である彼を容疑者として捜査を開始。地元紙がそれを報じたことでジュエルを取り巻く状況は一転、マスメディアは彼を糾弾し始め、その報道は日に日に加熱していくことに。ジュエルは旧知の弁護士ワトソン・ブライアントに助けを求めるが...
 

review:

罪無き市民が、報道によって犯人に仕立て上げられる。松本サリン事件を思い出す人もいるだろう。国家権力とメディアによる”リンチ”の犠牲となったリチャード・ジュエルの伝記映画が製作されるにあたって、当初はレオナルド・ディカプリオジョナ・ヒルが主演と製作を兼任する予定だったらしい。なるほどジョナ・ヒル。しかし彼らが降板したことによってイーストウッドに白羽の矢が立ち、結果、出演がサム・ロックウェルとポール・ウォルター・ハウザーになって良かったと思う。言わずもがな、イーストウッド作品にハズレなし。ここ数年は実録「アメリカの英雄」シリーズが続き、そろそろオリジナルのドラマを観たくはあるが、89歳にしてこの切れ味はさすがである。そして主演俳優の2人も素晴らしい。『スリー・ビルボード』で小物感溢れる警察官だったサム・ロックウェルが、本作では頼れる弁護士になりきり、とても同一人物とは思えない演技力。何より、ポール・ウォルター・ハウザーがリチャード・ジュエルに激似。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でニートで童貞の「ショーン・エッカート」を演じていたハウザーを観たイーストウッドが、ジュエル役こいつしかおらんやんけってキャスティングしたらしい。オタク気質で、独善と紙一重の正義感の持ち主、周囲の人を鬱陶しくさせるほど細かいことにこだわる低所得者層の白人(肥満)という、ジュエルのキャラクターを体現したハウザーの繊細な演技も見事だったし、犯人かもしれない、あるいは犯人に仕立て上げられても不思議じゃない、その人物像を絶妙な塩梅で描いたイーストウッドが流石である。筆舌に尽くしがたい理不尽と闘う彼らの姿を、観客の不安を煽りながらスリリングに映し出した演出と構成が秀逸で、流石としか言いようがないのだ。つまり面白かったのであるが、一点、遺憾に思うのは、女性記者キャシー・スクラッグスの描かれ方だ。すでに世間で叩かれている通り、あまりにも偏見に満ちた”ステレオタイプ”だ。このエピソードが完全なフィクションならまだしも、この記者が実在の、しかも存命ではない人物であることに閉口した。ただただ残念である。
 

trailer: