銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】レディ・バード

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-39
 

うんちく

『フランシス・ハ』『20センチュリー・ウーマン』でも各映画賞に多数ノミネートされ、個性派女優として多彩な才能を発揮するグレタ・ガーウィグが、自伝的要素を取り入れながら監督・脚本を手掛けた青春ドラマ。全米4館から全米1,557館まで拡大公開され、5週連続トップ10入りのスマッシュ・ヒットとなった。『つぐない』『ブルックリン』のシアーシャ・ローナンが主演を務め、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジズ、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメらが脇を固める。ゴールデン・グローブ賞で作品賞および主演女優賞を受賞し、アカデミー賞でも作品賞ほか6部門にノミネートされた。
 

あらすじ

2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感漂う片田舎のカトリック系高校に通うクリスティンは、自らを“レディ・バード”と名乗り、ニューヨークへの大学進学を夢見ている。しかし看護師の母マリオンは、家庭の経済的事情からも地元の大学で充分だと聞く耳を持たない。母と衝突を繰り返す一方、親友のジュリーと一緒に学校で行われる演劇のオーディションを受け、そこで知り合ったダニーと恋に落ちるが...
 

かんそう

アメリカにもスクールカーストは存在し、ここ数年はその底辺にいる”はみだし者”にスポットをあてた青春ドラマが増えている。個人的には『スウィート17モンスター』のほうが好みだったが、これはどうやら監督のグレタ・ガーウィグが脚本主演を務めた『フランシス・ハ』の前日譚のようだ。私は『フランシス・ハ』を観ていない。うむ。さて気を取り直し、舞台となったサクラメントについて調べてみた。スイス人移民のジョン・サッターの手によって発展を遂げ、1849年のゴールドラッシュ以降アメリカを代表する都市になったとのことだが、実際のところ州都でありながらロサンゼルスやサンフランシスコに比べてかなり地味であり、田んぼが広がる田舎、暇なときにやることがない、とまで書かれていた。クリスティンが言う”文化が何もない街”とはまあ的確な表現らしい。そんな片田舎の閉塞感のなかで、思春期特有の自己特別感を持て余し、自我と自尊心をこじらせた、ちょっとズレていて冴えない女子高生の痛々しい日々をテンポよく描いている。自ら「レディ・バード」と名乗ってみたり、何者にかなりたくて都会に憧れる気持ちとか、斜に構えたバンドマンに恋してイケてるグループに近付いてみたりとか、背伸びしたり知ったかぶりしたり。痛い。痛いけど、その青臭さを懐かしく思い出す。そしてこの物語の特徴は、アメリカにおける大学受験の苦しみと、厳格で口やかましい母親との衝突と葛藤を描いている点だ。自分の考えを認めてもらえないクリスティンは、兄に比べて母親に愛されていないと思い込んでいる。だが、画面からは母マリオンが不器用ながら確かに娘を愛していることが伝わってくる。微笑ましく、切ない。近すぎて見えない親の寛大な愛は、ずっとずっと後になって押し寄せてきたりするものだ。尚、カリフォルニア大学バークレー校出身のお兄ちゃんはどうやらアジア系の外見なので養子らしい。終盤にそれを裏付ける母娘のエピソードが出てくるが、その頃にはもう、涙でスクリーンが見えないことだろう・・・。じんわりと、素敵な映画であった。