銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ジュリアン

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-07
『ジュリアン』(2017年 フランス)
 

うんちく

本作が長編初監督となるフランスの新鋭グザヴィエ・ルグランが、第74回ベネチア国際映画祭で最優秀監督賞にあたる銀獅子賞を獲得したヒューマンドラマ。離婚した夫の執着に追い詰められる妻とその子供の姿を描く。アカデミー賞短編部門にノミネートされた短編『すべてを失う前に』と同じテーマを、同じキャストで長編化。『青の寝室』などのレア・ドリュッケール、『イングロリアス・バスターズ』などのドゥニ・メノーシェらが出演。
 

あらすじ

11歳の少年ジュリアンは、両親の離婚により、母ミリアムと姉の3人で暮らしている。母ミリアムは夫のアントワーヌに子供を近付けたくなかったが、離婚調停の取り決めで親権は共同となり、ジュリアンは隔週末ごとに父と過ごさなければならなくなった。父アントワーヌはジュリアンを通じて、自分に会おうともせず連絡先も教えないミリアムの所在を突き止めようとする。ジュリアンは母を守るため、必死で嘘をつき続けるが...
 

かんそう

内閣府の調査によると、成人女性の3人に1人がDV被害を体験しており、警察の統計によると、日本では今も3日に1人ずつ、妻が夫によって殺されているという。ヨーロッパにおいても深刻で、16歳から44歳までのヨーロッパ人女性の身体障害や死亡の原因が、病気や事故を抜いてDVがトップなのだそうだ。いずれにしても対策は遅れており、被害者は後を絶たない。本作はDV被害の恐怖に晒される母子、それを救済しない司法制度の実態が映し出される。子役の演技が凄い。とにかく凄いのである。ジュリアンを演じたトーマス・ジオリアだけでなく、姉のジョゼフィーヌを演じたマティルド・オネヴも素晴らしかった。遠回しな表現で淡々と描かれるが、直接的な暴力の回想シーンがないにも関わらず、子供達の瞳から滲み出る不安や哀しみから、かつて与えられた恐怖がこちらにまで伝わってくるのだ。思わせぶりな予告のせいで、捻りのある展開を期待していたが、意外なほどあっさりと真っ直ぐに物語は転がっていく。そのくせ、恐いのである。父アントワーヌを演じたドゥニ・メノーシェの演技も相俟って、最後まで絶え間ない緊張感に支配される。その恐怖から解放されたとき、理由は分からないが涙が出た。ラストシーン、そっとドアを閉める隣人の視線が印象に残る。長い沈黙は、くすぶる憂鬱と余韻を深くする。それにしても監督のグザヴィエ・ルグランがイケメンだなー