銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】私はあなたのニグロではない

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-33
私はあなたのニグロではない』(2016年 アメリカ,フランス,ベルギー,スイス)
 

うんちく

60年代公民権運動の中心的人物・思想家としたアメリカ黒人文学を代表する作家、ジェームズ・ボールドウィンが残した未完成原稿『Remember This House』を基にしたラウル・ペック監督によるドキュメンタリー。ボールドウィンの盟友であり、30代の若さで暗殺された公民権運動のリーダー―メドガー・エヴァース、マルコムXキング牧師らの活動の軌跡を追いながら、アメリカの人種差別と暗殺の歴史に迫る。俳優のサミュエル・L・ジャクソンがナレーションを担当。ロサンゼルス映画批評家協会賞などで受賞したほか、第89回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞など数多くの映画賞にノミネートされ、高く評価されている。
 

あらすじ

1957年。フランス・パリで執筆活動をしていたボールドウィンは、ある報道をきっかけに「パリで議論している場合ではない。われわれの仲間は皆責任を果たしている」と故郷に帰る決心をする。人種差別の最も激しいアメリカ南部への旅に出た彼は、公民権運動のリーダーだったメドガー、マルコムXキング牧師との出会いと別れ、司法長官ロバート・ケネディとの会談、それらの出来事を記録し、各地で講演を行う、精力的な活動を通して、アメリカの人種差別の歴史とその正体を解き明かしていくが...
 

かんそう

60年代の公民権運動から現在のブラック・ライブズ・マターに至るまでを描いているが、50年経った今でも人種差別を巡る状況が変わらないことを突きつけられるドキュメンタリーだ。
「歴史は過去ではない、現在だ。我々は歴史と共にある、我々が歴史なのだ。この事実を無視するのは犯罪と同じだ。」ハーレム生まれのボールドウィンは、1948年からパリに暮らしていた。当時、黒人が米国で白人による人種差別を批判することには命の危険が伴う。しかし彼は「二度と戻らなくてもよかった」はずのアメリカに1957年に帰還する。ノース・カロライナ州シャーロットで、黒人で初めて白人の高校に入学したハリー・カウンツという少女がいた。登校するハリーに罵声と嘲笑を浴びせ、石や汚物を投げつける白人たちの群れとともに、苦痛の表情を浮かべながらも、尊厳を失うまいとしている彼女の写真がパリ中の新聞に掲載されたのだ。ボールドウィンは彼女に同情するとともに「誰かが彼女に付きそうべきだった」と大いに恥じた。そして彼はマルコムXキング牧師らとともに公民権運動に身を投じ、"差別の正体”を解き明かしていく。「私はニガーではない。私がニガーだと思う人はニガーが必要な人だ。白人がニガーを生み出したのです。何のために?それを問えれば未来はあります。」作中に挿入される実際の映像に映し出されるレイシストたちの醜く歪んだ顔にぎょっとする。無知と先入観によって生み出される差別と偏見が、人を怪物に変えてしまうのを目の当たりにするのだ。私たちはきっと、それを直視したほうが良い。ロバート・ジョンソンよりも先に悪魔に魂を売ったブルースマン、トミー・ジョンソンを筆頭に、ビッグ・ジョー・ウィリアムズ、バディ・ガイジェームス・ブラウンといったその時代を映し出す黒人音楽に彩られているが、エンディングに流れるケンドリック・ラマーの「The Blacker The Berry」が ”この現実を見ない者は皆、偽善者だ” と訴える。キング牧師暗殺から50年、何も変わっていない。