銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】女は二度決断する

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-29
女は二度決断する』(2017年 ドイツ)
 

うんちく

ベルリン、カンヌ、ヴェネチア、世界三大国際映画祭すべてで主要賞受賞経験を持つドイツの名匠ファティ・アキン監督による人間ドラマ。2000年から7年間の間にネオナチNSUがドイツ全土で行った連続テロ事件を基に、無差別テロによって愛する夫と息子の命を奪われたた女性が悲しみと絶望のなかで下す「決断」を描く。主演のダイアン・クルーガーは初めて母国語であるドイツ語で演じた。『顔のないヒトラーたち』などのヨハネス・クリシュや『白いリボン』などのウルリッヒ・トゥクールらが共演。ゴールデン・グローブ外国語映画賞を受賞したほか、数々の映画祭でノミネートされ、カンヌ国際映画祭では主演のダイアン・クルーガー女優賞を獲得している。
 

あらすじ

ドイツ、ハンブルク。カティヤはトルコ移民のヌーリと結婚し、息子ロッコも生まれ、幸せな家庭を築いていた。そんなある日、ヌーリの事務所の前で爆発事件が起き、ヌーリと息子ロッコが犠牲になってしまう。警察は当初、外国人同士の抗争を疑っていたが、やがて在住外国人を狙った人種差別主義やのドイツ人によるテロであることが判明する。容疑者が逮捕され裁判が始まるも、被害者であるにも関わらず人種や前科を持ち出され、思うような結果が出ないことに心の傷を深めていくカティヤ。愛する家族を失った絶望と、憎しみを抱えるカティヤが下す決断とは...
 

かんそう

アキ・カウリスマキの最新作『希望のかなた』でも、“いい人のいい国”だと聞いていたフィンランドで、シリア難民の主人公カーリドがネオナチによる暴力にさらされる場面がある。欧州のほとんどの国で第二次世界大戦後、ナチズムの肯定及びそれに類する発言は全面的に法令上禁止されている。にも関わらず、現代においてネオナチの動きは世界的な拡がりを見せ、多くの国に組織があり国際的なネットワークが築かれている。そして2000年から2007年までの7年間、ドイツ東部チューリンゲン州を拠点にしている「国家社会主義地下組織(NSU)」を名乗るネオナチの男女3人によりトルコ系男性8人、ギリシャ系男性1人、ドイツ人女性警察官1人の計10人を連続殺人した容疑が発覚した。本作はこの事件をベースにしている。経済格差など混迷の続く欧州では、若者たちのフラストレーションの捌け口として、白人至上主義から移民や外国人労働者の排斥運動、暴行・略奪などの犯罪行為が横行しているそうだ。理不尽な暴力によって愛する家族を奪われ、捜査や裁判の過程でも心を引き裂かれていくカティヤの悲しみと絶望を全身全霊で体現したダイアン・クルーガーの演技に心を揺さぶられる。世界中で無差別テロの悲劇が報じられ、報復というかたちで繰り返される暴力は、哀しみの連鎖を生む。カティヤの下した決断の向こうに、何があるのか。言いようのない虚無感を感じながら、もし、自分がカティヤと同じ立場だったら、という自問を胸に抱かずにはいられない。