銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】15時17分、パリ行き

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-19
『15時17分、パリ行き』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

アメリカン・スナイパー』『グラン・トリノ』の巨匠クリント・イーストウッドが、2015年8月にパリ行きの高速鉄道で起きた無差別テロ襲撃事件「タリス銃乱射事件」を映画化。現場に居合わせ、武装した犯人に立ち向かった3人の勇敢なアメリカ人青年たちの半生を描く。事件の当事者であるアンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーンを主演に起用し、さらに実際に列車に居合わせた一般人が大勢出演するという極めて大胆なキャスティングで製作された。撮影も実際に事件が起きた場所で行われた。撮影は30年以上にわたってイーストウッドとチームを組んできたトム・スターン。
 

あらすじ

2015年8月21日、乗客554名を乗せたアムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリス車内で、トイレに入ろうとしたフランス人の乗客が異変に気付く。トイレから出てきた武装したイスラム過激派の男が自動小銃を発砲。乗務員は一目散に現場から逃げ出し、乗客たちがパニックに陥るなか、旅行中で偶然列車に乗り合わせていたアメリカ空軍兵のスペンサー・ストーンとオレゴン州兵アレク・スカラトス、そして2人の友人である大学生のアンソニー・サドラーは犯人に立ち向かうが...
 

かんそう

ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』『アメリカン・スナイパー』と、クリント・イーストウッドに与えられた衝撃は数知れないが、今回もまた、強烈な映画体験をした。この物語の主人公である、米空軍兵スペンサー・ストーン、オレゴン州兵のアレク・スカラトス、大学生アンソニー・サドラーの3人をそれぞれ本人が演じているというのだ。それどころか、当時居合わせた人々のほとんどが本人役で出演している。究極のリアリティーを追求した前代未聞、前人未到の挑戦に、我々も立ち会う。驚くべきことは、それが成り立っていたことだ。少なくとも(私がネイティブではないからかもしれないが)3人の演技に違和感がなかった。そして、クリント・イーストウッドの、人間を見つめる眼差し。そのフィルターを通して、彼らがどこにでもいる普通の若者たちだったことが描かれる。サバゲーオタクのいじめられっ子3人組は学校でも問題児扱い。人命を助けたい一心で入隊した空軍でも、早々に落ちこぼれる。彼らの過去を美化することなく、アメリカを英雄扱いせず、ナチスの史跡をめぐるツアーではガイドに「全てがアメリカの手柄ではない」と言わしめる。世界中が無差別テロの危機と隣り合わせているいま、誰の日常にでも起こり得ること、そして誰にでも出来ることがあると黙示する。賛否が分かれているようだが、私はイーストウッドらしい優れた作品だと感じた。幼い頃からスペンサーを導いてきた、アッシジの聖フランチェスコの「平和の祈り」が実に印象深い。 ——神よ、わたしをあなたの平和の道具にしてください。憎しみがあるところに愛を、 争いがあるところに赦しを、 分裂があるところに一致を、 疑いのあるところに信仰を、 誤りがあるところに真理を、 絶望があるところに希望を、 闇あるところに光を、 悲しみあるところに喜びを。