銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ガザの美容室

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-42
ガザの美容室』(2015年 パレスチナ,フランス,カタール)
 

うんちく

パレスチナ自治区、ガザで生まれ育った双子の監督タルザン&アラブ・ナサールによる初の長編作品。第68回カンヌ国際映画祭批評家週間に出品され話題を呼んだ。ガザの美容室を舞台に、戦争状態という日常を生きる女性たちをワンシチュエーションで描き、戦闘に巻き込まれ、監禁状態となった人々の恐怖を追体験するヒューマンドラマ。出演は『扉をたたく人』『ブレードランナー 2049』などのヒアム・アッバスら。
 

あらすじ

パレスチナ自治区、ガザ。ロシアからの移民、クリスティンが経営する美容室は、女性客でにぎわっていた。亭主の浮気が原因で離婚調停の主婦エフィティカール、戦争で負傷した夫に処方された薬で中毒になっているサフィア、結婚式を今夜に控えたサルマ、臨月の妊婦ファティマ、マフィアの一員アハマドとの恋愛関係に悩んでいるアシスタントのウィダト。女だけの憩いの空間でヒジャブを脱ぎ捨て、四方山話に興じている。しかし通りの向こうで銃声が響き、美容室は殺りくと破壊の炎の中に取り残され…。
 

かんそう

ガザのことをどのくらい知っているだろうか。イスラエル/パレスチナはアジア、ヨーロッパ、北アフリカを結ぶ重要な場所であり、ユダヤ教キリスト教イスラム教の聖地であるエルサレムをめぐる争いには長い長い歴史があり、さまざまな国や民族、宗教に支配が移り変わってきた。そして現在のガザは、「自治区」とは名ばかりのイスラエルの占領地に180万人のパレスチナ人が収容されている。四方を海と壁、フェンスで囲われた“空の見える監獄”だ。世界で最も人口密度が高い地域の一つであり、世界で最も1平方メートルあたりの流血量が多いと言われている地域である。そんなガザ地区の美容室。その小さな空間で、個性豊かな女性たちが感情の赴くままに、たわいないおしゃべりをしているうちに諍いが起き始める。じっとりとむせかえるような、けだるい湿度が映像から伝わってくるのが実に鬱陶しい。不快極まりないこの空間で、我々は男たちの戦争によって閉じ込められている女性たちの苛立ちを体験させられているのだ。やれやれ、という気分になったが、そこに「人生」があるのを確かに見た。「ガザ地区の女性たちは、頭からつま先までベールで覆っていて、外の世界の価値観を知らないというようなお決まりの姿で描かれる。でも他の地域の女性と同じように、彼女たちは幸せを感じたり悲しんだり、日々の問題に向き合い、恋もするし、自分の意見も持っている。(中略)戦争中であっても、彼女たちは常に人生を選択している。 僕たちは“虐げられたパレスチナの女性”ではなく、人々の暮らしを、死ではなくて人生を描かなきゃならないんだ」と監督のタルザン&アラブ・ナサール兄弟が語っているように。