銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】はじまりへの旅

f:id:sal0329:20170507230645p:plain

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-22
『はじまりへの旅』(2016年 アメリカ)

うんちく

第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞したことで注目を集め、世界各国の映画祭で賞を獲得。現代社会に背を向け、アメリカ北西部の山奥で自給自足のサバイバルライフを実践している一家の”初めての旅”を描いたロードムービー。わずか4館での封切りでスタートした全米公開は600館まで拡大し、4ヶ月を越えるロングラン・ヒットを記録した。自作のオリジナル脚本を映画化した監督マット・ロスは俳優としても活躍、これが2本目の長編監督作となる。『イースタン・プロミス』などのヴィゴ・モーテンセン、『パレードへようこそ』などのジョージ・マッケイ、『フロスト×ニクソン』などのフランク・ランジェラらが出演。

あらすじ

アメリカ北西部。電気やガスはおろか携帯の電波さえ届かない大森林の中で、高名な哲学者ノーム・チョムスキーを信奉し現代文明社会に背を向けた父親ベン・キャッシュは、6人の子供達と自給自足のサバイバル生活を送っていた。18歳の長男ボウドヴァン、15歳の双子キーラーとヴェスパー、12歳の次男レリアン、9歳の三女サージ、そして7歳の末っ子ナイは学校に通わず、厳格な父親による特訓と教育により、古典文学や哲学を学んで6ヵ国語をマスター。おまけにアスリート並みの体力を誇り、ナイフ1本で生き残る術まで身につけていた。しかしある日、入院していた母レスリーが他界。一家は母の最後の願いを叶えるため、葬儀に出るべく2400キロ離れたニューメキシコを目指して旅に出るが…...

かんそう

なるほど、アメリカ的な資本主義とキリスト教原理主義への痛烈なアイロニーのようだ。一家の奇妙な言動が、資本主義的な消費社会に組み込まれた食形態、考える力を育まない学校教育、宗教を盲信する非論理性といった「現代の価値観」の正しさの是非、本当の幸せとは何かという問いを投げかけてくる。そして面白いことには、登場人物の誰もが正しく、そして間違えている。誰にも共感しないのだが、一家が母親を見送るシーンは否応なしに美しく、泣かされる。様々な音楽に彩られ、哲学、教育論、宗教といった学術的な記号やサバイバル術などの知識が散りばめられているので興味深い。とりあえず鑑賞後、チョムスキーおじさんについてググったよね。そして、珍しく仏教思想について割と正しく理解されていたように思う。