銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ブリムストーン

f:id:sal0329:20180114215649p:plain

 劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-02
『ブリムストーン』(2016年 オランダ,フランス,ドイツ,ベルギー,スウェーデン,イギリス,アメリカ)

うんちく

ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出され、その強烈な内容が批評家の間でも大きな議論を巻き起こしたスリラー。19世紀アメリカの西部開拓時代を舞台に、時代と信仰に翻弄された一人の女性の生き様を描く。監督・脚本はオランダの名匠マルティン・コールホーヴェン。主演は『アイ・アム・サム』『リリィ、はちみつ色の秘密』などのダコタ・ファニング、『L.A.コンフィデンシャル』『メメント』などのガイ・ピアーズ。エミリアジョーンズ、カリス・ファン・ハウテンキット・ハリントンらが共演。

あらすじ

19世紀、西部開拓時代のアメリカ。小さな村で、年の離れた夫と二人の子供と暮らす美しい女性リズ。ある事情で言葉を発することができないが、村では助産師として人々からの信頼を寄せられ、概ね幸せに暮らしていた。そんなある日、鋼のような肉体と信仰心を持つ牧師が村にやってくる。リズの過去を知る牧師から「汝の罪を罰しなければならない」と告げられ、秘めていた壮絶な記憶を蘇らせた彼女は、家族に危険が迫っていることを夫に伝えるが……

かんそう

深淵を覗いてしまった。「Brimstone」は”地獄の業火”のことである。硫黄(sulfur)の英語の古名であり、「Burn-stone(燃える石)」を意味する古英語「Brynstān」が元になっているそうだ。また、「女神の添え名であるBrimoが語源。意味は「怒り狂う者(raging one)」で、女神の破壊者としての面を表している。錬金術で硫黄を表すシンボルは女神アテーナーのシンボルと同じで、十字の上に三角形が乗ったものである。これはヴィーナスのシンボルと同様、男性性器の上に女性性器が乗っているしるしである」とのこと。「Fire and Brimstone」は旧約聖書の『創世記』などに登場する「灼熱地獄(Inferno)」の訳語となり、”地獄の責め苦”をあらわす。このタイトルが全てを物語っているが、アメリカ西部開拓時代とプロテスタントの宗教的背景をある程度知っておいたほうが理解しやすいだろう。

狂信により歪められた聖なる言葉でサディスティックに虐げられる女性たち。暴力が”持たざる者”を支配する過酷な時代に翻弄されながら、その運命に屈することなく自分の意思を生きようとした女性の壮絶なクロニクルである。「Revelation(啓示)」「Exodus(脱出)」「Genesis(創世)」「Retribution(報復)」という4章で成り立っており、リズとは一体何者なのか謎を残したまま、彼女が犯した「罪」とは何か、過去に遡り紐解かれていく構成が見事。目を背けたくなるほど凄惨でおぞましい記憶を辿りながら、片時も目が離せない地獄めぐりは悪夢のよう。その瞳で、その全身全霊でこの受難を演じきったダコタ・ファニングの素晴らしさ。観る者の心に拭えないトラウマを残す問題作。