銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ボーダー 二つの世界

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-56
『ボーダー 二つの世界』(2018年 スウェーデン,デンマーク)
 

うんちく

ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストが原作と共同脚本を手掛け、イラン系デンマーク人の新鋭アリ・アッバシが監督を務めた幻想的なミステリー。出演はエヴァ・メランデル、エーロ・ミロノフ。本年度アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネート、第54回スウェーデンアカデミー賞で作品賞をはじめ最多6部門を受賞し、第71回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」でグランプリを受賞した。各国の映画祭で「ショッキング過ぎる」と物議を醸したシーンがあるが、製作者の意向を汲み、無修正での日本公開が決定した。
 

あらすじ

スウェーデンの税関職員ティーナは、渡航者の違法な所持品を嗅ぎ分ける特殊能力を持っていたが、生まれつきの醜い容姿に悩まされ孤独な人生を送っていた。ある日、彼女は勤務中に風変わりな旅行者ヴォーレと出会う。ヴォーレに対し本能的に何かを感じ取ったティーナは、後日、彼を自宅に招いて離れを宿泊先として提供することに。次第にボーレに惹かれていくティーナだったが、彼にはティーナの出生にも関わる大きな秘密があった...
 

かんそう

IKEAの国から届いた問題作。何を書いてもネタバレになるのでうっかり何にも書けやしないが、しかし凄まじい作品。こんなの初めてよ。スウェーデンIKEAだけじゃないのよ。私の浅はかな知識で思うことには、北欧と日本って感覚的な部分がちょっと似ている。うまく言語化できないけど、日本神話がやたらと生々しいことだとか、そういう原始的な部分だ。北欧の森は深いなぁ(語彙力)。人間の羞恥心や罪悪感を嗅ぎ分ける嗅覚を持ち、生まれつきの醜い容姿によって孤独と疎外を強いられてきた税関職員のティーナが、奇妙な旅行者ヴォーレとの出会いによって運命が狂わされていく物語だ。何となく違和感を感じる、「異形のもの」を形作るための特殊メイクがあまりにもリアルで唸らされた。予告をチラ見して、そういう顔立ちの俳優さんかと呑気に思っていたら、女優さんの面影一切ないやんけ・・・。クリスチャン・ベイルも驚きの20キロ増量と1日4時間の特殊メイクで、フリークスと呼ぶにふさわしい野性味あふれる容貌を作り出し、それが人間社会にも溶け込んでいる様子は見事。実際、撮影時には大変な苦労があったそうだ。獣の息遣いや森の匂いまで伝わってくるような緻密で生々しい描写、そして衝撃的な「例の」場面に息を呑む。幻想世界を独創的なリアリズムで描き、詩的でありながら何ひとつ美しくない、グロテスクで獰猛な映像世界に辟易する。しかし、その美しいもの、美しくないものを切り分けているものは何だろう、と思ってしまうのだ。長い歴史のなかで形成されてきた世界のかたち、スタンダード、あるいは常識だと思っていることは、本当にそれが当たり前なのか。民族、人種、性別、美醜、文化、習慣、善悪、ありとあらゆるものの境界線は、本当にそれが正しいのか。異質なものとして排除され虐げられ、二つの世界のボーダーで揺れ動く彼らの姿を通して、我々が見えている世界は「多勢」が勝手に作ったものだと知る。ティーナはこの世界で、幸せになっただろうか。誰にもお勧めできないけど、私はこの作品のことを忘れないだろう。