銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ブラック・クランズマン

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-20
『ブラック・クランズマン』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』などでブラック・ムービーの礎を築いた名匠スパイク・リーが監督、脚本、製作を務め、黒人刑事が白人至上主義の過激派団体に入団して潜入捜査した実話を綴った小説を映像化。『セッション』のジェイソン・ブラム、『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールが製作陣に名を連ねる。主演は『マルコムX』のデンゼル・ワシントンを実父にもつジョン・デヴィッド・ワシントン。『沈黙 -サイレンス-』『パターソン』などのアダム・ドライバー、『スパイダーマン:ホームカミング』などのローラ・ハリアー、『アンダー・ザ・シルバー・レイク』などのトファー・グレイスらが共演。第71回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、第91回アカデミー賞では作品、監督など6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞。
 

あらすじ

1979年、コロラド州コロラドスプリングスの警察署で初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース。署内の白人刑事たちから冷遇されながらも捜査に燃えるロンは、情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKKクー・クラックス・クラン>のメンバー募集に電話をかけ、徹底的に黒人差別発言を繰り返し入団の面接にまで漕ぎ着けてしまう。しかし黒人であるロンは面接に行けないため、同僚の白人刑事フリップ・ジマーマンに協力してもらうことに。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じながら、KKKの内部調査を進めていくが...
 

かんそう

スパイク・リーと言えば『マルコムX』である。この作品に初めて出会った若き日の私は、言葉では言い表せないほどの強い衝撃を受けた。あの時のデンゼル・ワシントンの実の息子ジョン・デヴィッド・ワシントンが、黒人刑事ロン・ストールワースを演じる。なんとも感慨深い。相棒を演じたアダム・ドライバーはどんな作品に出演してもパターソンという名のバス運転手にしか見えないので、ほんとジム・ジャームッシュ罪深い。さて、原作ではロンの相棒の人種は明らかにされていないそうだが、スパイク・リーは「フィリップ」というユダヤ人の設定にした。KKKクー・クラックス・クラン)は白人至上主義の秘密結社である。正確にはプロテスタントアングロ・サクソン人WASP)などの北方系の白人のみが、神による選ばれし民として他の人種から優先され隔離されるべきであると主張するもので、それ以外の人種(黒人、アジア人、ヒスパニックなど)の市民権に異を唱え、カトリック、同性愛を否定し、反ユダヤ主義でもある。KKKに潜入するパターソン君がユダヤ人であることが殊更に物語の緊張感を高めていくが、皮肉と可笑しみを湛えたセリフの応酬、スパイク・リーのフラットな視点が、あらゆる人間の愚かさをあぶり出す。残念ながらアカデミー作品賞は逃してしまったが、実に見応えある作品であった。そしてやはり我々は、スパイク・リーが「いま」この映画を撮らなければいけなかったことについて、考えるべきだろう。KKKの幹部デヴィッド・デュークが劇中で繰り返し唱える「アメリカ・ファースト」がトランプ大統領とシンクロする。南北戦争キング牧師亡き後の1970年代、そして今のアメリカを映し出したスパイク・リーの痛烈なメッセージだ。憎しみに居場所なし。