銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ゲティ家の身代金

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-38
ゲティ家の身代金』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

1973年に起きた世界一の大富豪ジャン・ポール・ゲティの孫の誘拐事件を描いたクライムサスペンス。ジョン・ピアースンの原作「ゲティ家の身代金」をベースに、デヴィッド・スカルパが脚本を執筆。この傑出した脚本に惚れ込んだ巨匠リドリー・スコットが映画化した。出演はミシェル・ウィリアムズマーク・ウォールバーグら。公開直前にスキャンダルで降板したケヴィン・スペイシーに代わり、大御所クリストファー・プラマーが急遽ゲティを演じ、アカデミー賞演技部門ノミネートの歴代最高齢記録を更新した。
 

あらすじ

“世界中のすべての金を手にした”といわれる大富豪ジャン・ポール・ゲティ。1973年、孫ポールが誘拐され1700万ドルという破格の身代金を要求されるが、稀代の守銭奴だった彼は支払いを断固拒否。離婚により一族から離れていたポールの母アビゲイルは、息子を救い出すため誘拐犯、ゲティ家の両方と闘うことになる。狂言誘拐を疑われ、マスコミに追われて疲弊するアビゲイルだったが、その一方で、犯人たちは身代金が支払われる気配がないことに苛立ち始めていた...
 

かんそう

この映画の原題は「All the money in the world」である。1957年にフォーチュン誌に「最も裕福なアメリカ人」として掲載され、1966年に「世界一裕福な個人」としてギネスブック認定されたジャン・ポール・ゲティ。彼の当時の個人資産は、現在の価値に換算すると83億ドルに相当するそうだ。9兆円。なお、2018年の世界一はジェフ・ベゾスさん、日本の国家予算をゆうに超える1120億ドルをお持ちである。ピケティ先生が言う通り、格差が拡がり続けている資本主義社会の異常を実感しつつ、ゲティ氏に話を戻すと「世界一の金持ち」と言われた彼は「類稀れなるケチ」としても有名であった。孫のジャン・ポール・ゲティ3世がマフィアに誘拐されるが、しかし孫、父のジャン・ポール・ゲティJr.とともに普段の素行が悪すぎた。放蕩息子の狂言だと思ったじいさん、支払いを拒否。たしかに1700万ドルは途方もない金額だが、事件が起きた1973年当時はオイルショックで石油価格が暴騰しており、ゲティは1日に1700万ドル以上の利益を得ていたと言われている。その後の顛末は是非映画を観ていただきたいが、金に取り憑かれ、翻弄されたゲティ家のこの驚くべき実話が、安定のリドリー・スコット品質で中弛みすることなくスリリングに描かれており、見応えのある作品となっている。そしてこの作品の驚くべきことがもう一点ある。当初ケビン・スペイシーが特殊メイクにより81歳のゲティを演じていたが、セクハラ問題により急遽降板。公開を1ヶ月後に控えていた2017年11月、スコット監督はクリストファー・プラマーに出演をオファーし、たった9日間で再撮影を行ったのである。一時はお蔵入りも危惧されたが、クリストファー・プラマーの見事な仕事と存在感による”ジャン・ポール・ゲティの肖像”は圧巻だ。ミシェル・ウィリアムズの実力は言わずもがな、しかし『テッド』でダメ中年を演じたマーキー・マークことマーク・ウォールバーグが元CIAの交渉人をシリアスに演じているが、どうしてもアホかわいい。マット・デイモンの代わりだったのかしら・・・などと勘繰りつつ、最後に、ゲティ家について調べているときに出会ったゲティ3世の言葉を記しておきたい。
 
To me, money is not happiness at all.  ——John Paul Getty III