銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ザ・ピーナッツバター・ファルコン

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映画日誌’20-08:ザ・ピーナッツバター・ファルコン
 

introduction:

やさぐれた漁師と、施設から脱走したダウン症の青年の旅路を描いたドラマ。本作が長編映画デビューとなる俳優ザック・ゴッツァーゲンが主演を務め、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』『ニンフォマニアック』などに出演したシャイア・ラブーフ、『フィフティ・シェイズ』シリーズなどのダコタ・ジョンソンらが脇を固めた。本作が長編初監督作となるタイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツが監督と脚本を担当し、製作陣には『リトル・ミス・サンシャイン』などのプロデューサー、アルバート・バーガーとロン・イェルザらが集結。2019年4月に開催されたSXSW映画祭で観客賞を受賞した。(2019年 アメリカ)
 

story:

老人養護施設で暮らすダウン症の青年ザックは、子どもの頃から憧れていたプロレスラーの養成学校に入るため、施設を脱走する。時を同じくして、しっかり者で優しかった兄を亡くし、孤独な日々を送っていた漁師のタイラーは、他人の獲物を盗んでいたことがバレてボートでの脱走を図る。ジョージア州サバンナ郊外で偶然出会った2人は意気投合。ザックを捜すためにやってきた施設の看護師エレノアも加わり、3人はザックの夢を叶える旅に出る。
 

review:

まず、監督を務めた2人の略歴が全力でふざけていて良い。「ニルソンは「どうでもいい商品の」CM出演や、世界屈指の手のパーツモデルとしてブラッド・ピットの手の吹替で活躍、シュワルツは自転車でのアメリカ横断や果樹園づくり、長いヒゲを伸ばすことなどに挑戦していた」んだそうだ。主演を務めたザック・ゴッサーゲンの「映画スターになりたい!」という夢を一度真っ向から否定したことはいただけないが、「じゃあ、君たちが僕のために映画を作ってくれよ!」という言葉にきちんと応えたところは素晴らしい。はぐれ者と知的障がい者のバディ・ムービーと言えば『レインマン』『八日目』などの名作が脳裏をかすめるが、この際、何番煎じみたいなことは言いますまい。なぜならこの映画は、ザックのために作られた物語で、ザックが活躍する姿を活写する映画だからだ。「僕はダウン症なんだ」と言うザックに対して、シャイア・ラブーフ演じるやさぐれ漁師くずれタイラーが「知るか!」と切り返す。タイラーは偏見を持たず、ザックを1人の人間として分け隔てなく接する。当たり前の友情を育む2人の姿は、ザックを特別扱いしていた看護師のエレノアに大いなる気付きを与える。エレノアを演じたダコタ・ジョンソンがかわいい。小振りながら、心温まる良作であった。ちなみに撮影中、シャイア・ラブーフが泥酔による迷惑行為で逮捕され、しかもアフリカ系の警官に人種差別的な発言を繰り返したとして非難の対象となった。一時は本作の公開が危ぶまれたそうだが、これが俳優デビュー作となるザックにガチ怒られて反省したシャイアは更生を誓い、リハビリ施設に入所したそうだ。ええ話や。
 

trailer: 

【映画】イーディ、83歳 はじめての山登り

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映画日誌’20-07:イーディ、83歳 はじめての山登り

introduction:

長年の夢を叶えるべく、山登りに初挑戦する83歳の女性の姿を描いた人間ドラマ。撮影当時、役と同じ83歳だった『縞模様のパジャマの少年』などのシーラ・ハンコックが、実際に山に登り、過酷な撮影に挑んだ。共演には『ウイスキーと2人の花嫁』などのケヴィン・ガスリー、『天使の分け前』などのポール・ブラニガンら。『ミュータント・クロニクルズ』などのサイモン・ハンターが監督を務めた。(2017年 イギリス)
 

story:

30年もの長い間、夫の介護に人生を捧げてきた83歳のイーディは、娘から施設に入ることを勧められ、人生の終わりを感じていた。そんなある日、街のフィッシュアンドチップス屋の店員が発したふとした言葉をきっかけに、かつての夢だったスコットランドのスイルベン山に登ることを決意。ロンドンから夜行列車でスコットランドに向かったイーディは、偶然知り合った地元の登山用品店の青年ジョニーをトレーナーとして雇い、山頂へ登る訓練を始めるが...
 

review:

”Never too late.” ロンドンの片隅にあるフィッシュアンドチップス屋が、追加注文しようとした老婦人にかけた言葉である。遅すぎることはないよ。月並みと言えば月並みすぎる台詞だし、それをきっかけに一大決心するとか、映画の設定としてはあまりにも陳腐…!! でも、刺さったのである。実年齢的には人生の折り返し地点にさしかかった私の心にも。年齢にとらわれたり縛られたりしない生き方をしよう思っているけど、歳を重ねるごとに生きるのが楽になってきたのは事実だ。人生で一番楽しかったのはいつか?という質問には、いつだって「いま」と答える。今が最高に楽しいし、今の自分が一番好きだ。認めてないけど、やや若見えするらしい私も、確実に歳を重ねているのである。ロンドンのフィッシュアンドチップス屋が何気なく発した言葉が刺さるほどに。まあ、この場面と、スイルベン山の雄大で美しい自然と、イーディーが頑張ってる姿以外は、特筆すべきことがない作品とも言える。ただ、いつかの夢を叶えようと奮闘するイーディーの姿に自分を重ねて、自分の生き方を振り返るには程良い。私は、人生の終わりに何をするのだろう。今は忙殺されて、思いを巡らす時間もないけれど。いつか夢に見た、星野道夫が珠玉の言葉で綴ったアラスカを旅したい。そして、あまりにも早く歩き過ぎてしまって、どこかに置き去りにして来てしまった心が、その場所に追いつくまで待っていたい。きっとイーディも、置き去りにして来てしまった心が、やっと追いついたのだろう。ところで「イーディ、83歳 はじめての山登り」「公式」ってググっても、公式サイトが出てこないよ・・・!SEO対策とは。
 

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【映画】ジョジョ・ラビット

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映画日誌’20-06:ジョジョ・ラビット
 

introduction:

マイティ・ソー バトルロイヤル』などで知られるニュージーランド出身のタイカ・ワイティティが、脚本と監督を手掛け、第二次世界大戦時のドイツを舞台に描く人間ドラマ。何か月も続いていたオーディションを一瞬で終わらせたという、ローマン・グリフィン・デイビスが主演を務め、『真珠の耳飾りの少女』などのスカーレット・ヨハンソン、『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェルらが共演。ワイティティ監督自身がヒトラーを演じている。音楽は『カールじいさんの空飛ぶ家』でオスカーに輝いたマイケル・ジアッチーノ。第92回アカデミー賞では、作品賞・助演女優賞の主要2部門をはじめ、脚色賞・編集賞美術賞・衣裳デザイン賞の6部門にノミネートされている。(2019年 ドイツ,アメリカ)
 

story:

第二次世界大戦下のドイツ。母親とふたりで暮らしている10歳のジョジョは、空想上の友達アドルフ・ヒトラーの助けを借りながら、青少年集団ヒトラーユーゲントの立派な兵士になろうと奮闘していた。しかし。心優しい彼は訓練でウサギを殺すことができず、教官から〈ジョジョ・ラビット〉という不名誉なあだ名をつけられ、からかいの対象となってしまう。そんなある日、ジョジョは家の片隅に隠し部屋を見つけ、そこにユダヤ人少女エルサが匿われていることに気付くが...
 

review:

理不尽な戦争への痛烈な風刺を織り交ぜながら、空想上の友人アドルフ・ヒトラーと会話する少年の日常をコミカルに描く。冒頭、ビートルズの名曲『抱きしめたい』のドイツ語バージョンにナチスドイツのプロバガンダ映画の映像を重ね、「ハイル、ヒトラー!」と駆け回るジョジョ少年の姿を軽やかに映し出し、高揚感を煽る。一事が万事、ワイティティ監督の仕事が見事だ。絶望的な状況にあっても、子どもの瞳に映る世界は輝いて希望に満ち、優しさと美しさで縁取られている。そして大人たちは間抜けで滑稽だ。第二次世界大戦下のナチスドイツという重いテーマが、デヴィッド・ボウイトム・ウェイツらの名曲に彩られ、子どもの視点で寓話的に語られる。それは突きつけられる戦争の残酷さとのコントラストを強くし、より一層哀しみを深くさせる。戦禍の中でもおしゃれを楽しみ、ダンスを踊り、豊かで人間らしい暮らしが戻ってくることを願っていたお母さんの素敵な靴。靴紐をうまく結べなかったジョジョ。全てを見ていた家の窓。エルサとの可笑しくも不毛なやりとり。手榴弾や銃を持たされる子ども。キャプテンKの眼差し。一つ一つが脳裏に焼き付いて離れない。ずっとスカーレット・ヨハンソンが苦手だったが、今回初めて好きかもしれないと思ってしまった。戦時下でも潔く自分の信念を貫き、子どもに愛を教える母親役をセクシーに演じたスカーレット・ヨハンソンがべらぼうにカッコいいのだ。そして『リチャード・ジュエル』に続きサム・ロックウェルがまた魅せてくれた。『グリーン・マイル』や『スリー・ビルボード』であんな感じだったのになぁ。どうでもいいけど親友のヨーキーが可愛すぎる。ジョジョよりヨーキー推し。いろんな意味で忘れ難く、心に残る傑作。
 

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【映画】フォードVSフェラーリ

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 映画日誌’20-05:フォードVSフェラーリ

 

introduction:

伝説的な1966年のル・マン24時間耐久レースで、モータースポーツ界の頂点に君臨するイタリアのフェラーリに挑んだフォード・モーター社の男たちを描いた伝記ドラマ。『ボーン』シリーズ、『オデッセイ』などのマット・デイモン、『ダークナイト』シリース、『バイス』などのクリスチャン・ベイルが主演する。『17歳のカルテ』『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』『LOGAN/ローガン』など多彩なジャンルのヒット作を手掛けてきたジェームズ・マンゴールドが監督を務めた。第92回アカデミー賞では、作品賞を筆頭に、音響編集賞、録音賞、編集賞の4部門にノミネートされている。(2019年 アメリカ)
 

story:

元レーサーのカー・デザイナー、キャロル・シェルビーのもとに、フォード・モーター社からル・マン24時間耐久レースでの勝利という信じがたいオファーが届く。それは6連覇中の絶対王者フェラーリを倒すということだった。心臓の病でレース界から身を退いていたシェルビーは、フォード社上層部から反対されながらも、型破りなドライバー、ケン・マイルズをチームに招き入れる。限られた時間と資金の中、開発における技術的なトラブルに止まらず、幾多の困難が彼らを待ち受けていた。それでもレースへの情熱を共有する男たちはいつしか固い絆で結ばれ、決戦の地ル・マンに乗り込んでいくが…
 

review:

激ヤセ激太り歯も抜く…クリスチャン・ベイルはいつだって全力投球!っていう記事を読み耽っていたら電車を乗り過ごして遅刻した。彼の主演デビュー作『太陽の帝国(1987年・スピルバーグ監督)』は、中学生になったばかりの私に衝撃を与え、親の目を盗んで2回映画館で観た。あれ、もしかしたら劇場好きの原体験ってこれか?てか実年齢がバレるよね。そういうわけでクリスチャン・ベイルが出ているとつい見ちゃう病だし、マット・デイモンが出ているとつい見ちゃう病のくせに、本作は何故かスルーしようとしていて、すんでのところで踏み止まった。あぶねー。直球すぎてロマンを感じないタイトルが良くないよと思ったら原題やんか。さて、限られた時間と資金のなかで、危険を冒しながら色んな敵と闘っているスタートアップのみなさんは是非、IMAXで観ましょう。7000回転の世界で唸る轟音に悶絶しながら、人生のすべてを捧げて不屈のプライドを貫き、命を賭して夢を追い求めた男たちのロマンに、どっぷりと浸ることができます。はい。観客を感動と興奮の渦に巻き込み、夢中にさせるという意味では、まさに本物のエンターテイメントだ。マンゴールド監督は、楽天的だったアメリカがシニカルに変化していく1960年代をより正確に映し出し、その瞬間を生きた、情熱的で競争心に溢れた人々のチャレンジを誠実なアプローチで描いている。シェルビーとマイルズの友情、マイルズを支えた妻モリーの愛、大企業同士の確執と社内政治、その全てをシェルビーに託したアイアコッカ。全てにドラマがあり、「素晴らしいものと感情を組み合わせられる監督」と製作のピーター・チャーニンが評しているが、その通りだと思う。ちなみにフォード社が誇る世界最高のマーケティング戦略家のひとり、リー・アイアコッカは、1964年に象徴的なフォード・マスタングを作ったこと、1979年にクライスラーを引き継いで破産から救ったことなど、数々のレガシーが残されているそうだ。業界が生んだ最高のショーマンが、フォードとレーシングを同義語にすべく、この物語を生んだのだ。そのことも記憶しておきたい。
 

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【映画】パラサイト 半地下の家族

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映画日誌’20-04:パラサイト 半地下の家族
 

introduction:

殺人の追憶』『グエムル 漢江の怪物』などの監督ポン・ジュノと主演のソン・ガンホが再びタッグを組んだ人間ドラマ。裕福な家庭に寄生する極貧家族の顛末を、格差社会への痛烈な批判を内包しつつ描く。『最後まで行く』のイ・ソンギュン、『後宮の秘密』のチョ・ヨジョン、『新感染 ファイナル・エクスプレス』のチェ・ウシクらが共演。第72回カンヌ国際映画祭では韓国映画初となる最高賞パルムドールを受賞し、第77回ゴールデン・グローブ外国語映画賞に輝いたほか、第92回アカデミー賞の各賞にノミネートされている。(2019年 韓国)
 

story:

半地下住宅で暮らすキム一家は、全員失業中で日々の暮らしに困窮していた。そんなある日、大学受験に失敗し続けている長男ギウに、IT企業の社長パク氏の豪邸で家庭教師を務める話が舞い込んでくる。パク一家の心を掴むことに成功したギウは、続いて、美大を目指すが上手くいかない妹のギジョンを美術の家庭教師として紹介する。子どもたちが思いがけず高給の仕事にありついたキム家は、徐々にパク家にパラサイトしていくが…。
 

review:

うーむ。目測を見誤り、着地する場所を間違ってしまった。これはブラックコメディだったのか。ポン・ジュノ作品童貞だったぼくちん、勝手にキム・ギドク的社会派ドラマ風味のシリアスなサスペンスを想像していたせいで、軽い肩透かしをくらってしまった。つい最近、人は自分のなかのフレームに沿った情報じゃないと受け取れないという話を聞き、この人はこういう性癖ですよって知ってないと、え?って混乱するでしょ?って、何故か下ネタで例え話されて妙に納得したんだが、まさにそれだ。アキ・カウリスマキが小津テイストで名もなき市井の人々を描いてるだけじゃないって知らないで『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』観たら困惑するし、ペドロ・アルモドバルが変態だって知らないまま(以下略)というわけで、芝居染みたコミカルな台詞回し、少々リアリティに欠けるクズしか出てこない展開に、思ってたんと違う!ドリフかよ!!って心で小さく叫んだが、しかし、プロットは巧い。前半で笑わせ、後半は空気を変え、格差甚だしい韓国社会の闇をごった煮にする。その”臭い”がスクリーンから漂ってくるようだ。『ジョーカー』でも印象的に描かれた階段が、本作でも格差社会の象徴として扱われている。高台の家のリビングから優雅に眺めていた雨は、階段を伝って下へ下へと流れ落ち、何層にも重なり錯綜するそれぞれの思惑ごと、半地下の家族を飲み込んでいく。ブラックコメディはいつしかサスペンススリラーの様相を帯びていくが、最終的になぜか”郷愁のような”境地に辿り着くのだ。なるほど前評判の通り、とんでもないところに連れてこられたなぁ、と肩を竦める。そういう意味では、実に面白い作品であった。

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【映画】リチャード・ジュエル

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映画日誌’20-03:リチャード・ジュエル
 

introduction:

1996年のアトランタ爆破テロ事件を題材にしたサスペンスドラマ。巨匠クリント・イーストウッドが、雑誌『ヴァニティ・フェア』に寄稿された記事『American Nightmare: The Ballad of Richard Jewell(アメリカの悪夢:リチャード・ジュエルのバラード)』を原作に、実在する警備員リチャード・ジュエルの受難を描く。『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェル、『アバウト・シュミット』などのキャシー・ベイツ、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』などのポール・ウォルター・ハウザーらが出演。(2019年 アメリカ)
 

story:

1996年7月27日、オリンピック開催中のアトランタで、警備員のリチャード・ジュエルが公園で爆発物を発見する。マニュアルに従ったジュエルの行動によって多くの命を救うことができたものの、それでも2人の死者と100人以上の負傷者を出す大惨事となった。一時はメディアによって英雄視されたジュエルだったが、FBIは爆発物の第一発見者である彼を容疑者として捜査を開始。地元紙がそれを報じたことでジュエルを取り巻く状況は一転、マスメディアは彼を糾弾し始め、その報道は日に日に加熱していくことに。ジュエルは旧知の弁護士ワトソン・ブライアントに助けを求めるが...
 

review:

罪無き市民が、報道によって犯人に仕立て上げられる。松本サリン事件を思い出す人もいるだろう。国家権力とメディアによる”リンチ”の犠牲となったリチャード・ジュエルの伝記映画が製作されるにあたって、当初はレオナルド・ディカプリオジョナ・ヒルが主演と製作を兼任する予定だったらしい。なるほどジョナ・ヒル。しかし彼らが降板したことによってイーストウッドに白羽の矢が立ち、結果、出演がサム・ロックウェルとポール・ウォルター・ハウザーになって良かったと思う。言わずもがな、イーストウッド作品にハズレなし。ここ数年は実録「アメリカの英雄」シリーズが続き、そろそろオリジナルのドラマを観たくはあるが、89歳にしてこの切れ味はさすがである。そして主演俳優の2人も素晴らしい。『スリー・ビルボード』で小物感溢れる警察官だったサム・ロックウェルが、本作では頼れる弁護士になりきり、とても同一人物とは思えない演技力。何より、ポール・ウォルター・ハウザーがリチャード・ジュエルに激似。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でニートで童貞の「ショーン・エッカート」を演じていたハウザーを観たイーストウッドが、ジュエル役こいつしかおらんやんけってキャスティングしたらしい。オタク気質で、独善と紙一重の正義感の持ち主、周囲の人を鬱陶しくさせるほど細かいことにこだわる低所得者層の白人(肥満)という、ジュエルのキャラクターを体現したハウザーの繊細な演技も見事だったし、犯人かもしれない、あるいは犯人に仕立て上げられても不思議じゃない、その人物像を絶妙な塩梅で描いたイーストウッドが流石である。筆舌に尽くしがたい理不尽と闘う彼らの姿を、観客の不安を煽りながらスリリングに映し出した演出と構成が秀逸で、流石としか言いようがないのだ。つまり面白かったのであるが、一点、遺憾に思うのは、女性記者キャシー・スクラッグスの描かれ方だ。すでに世間で叩かれている通り、あまりにも偏見に満ちた”ステレオタイプ”だ。このエピソードが完全なフィクションならまだしも、この記者が実在の、しかも存命ではない人物であることに閉口した。ただただ残念である。
 

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【映画】ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!

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映画日誌’20-02:ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!
 

introduction:

北欧のメタル大国フィンランドを舞台に、フィンランドで最も知られていないヘヴィメタルバンドが巨大フェスを目指して奮闘するコメディ。2018年のSXSWで上映され一躍話題となった。監督は本作品が長編デビューとなるユーソ・ラーティオ、ユッカ・ヴィドゥグレン。フィンランドを代表するヘヴィ・メタルバンド、ストラトヴァリウスでも活躍するラウリ・ポラーが音楽を手掛けた。『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』などのヨハンネス・ホロパイネン、『サマー・フレンズ』などのミンカ・クーストネンらが出演。(2018年 フィンランド,ノルウェー)
 

story:

フィンランド北部、何もない田舎の村。退屈な毎日を送る25歳のトゥロは、“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”というジャンルの4人組ヘヴィ・メタルバンドのボーカルを務める。しかし彼らは結成から12年、一度もステージに立ったことがないコピーバンドだった。ある日、遂に自分たちのオリジナル曲を作る決意をした彼らは、試行錯誤の末にとんでもないキラーチューンを完成させてしまう。そんな折、ひょんなことからノルウェーの巨大メタルフェスの主催者と知り合い、バンドに千載一遇のチャンスが舞い降りるが...
 

review:

いやもう、お願いだから観て。久し振りに劇場で声出して笑ってしもうたやないか。え?メタルを聴かない?大丈夫だ、私も一切聴かない。メタルの知識はもちろん、免疫も耐性も要らない。北欧の美しい森、雄大フィヨルドに響き渡る“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”は、あなたの心を鷲掴みにするはずだ。いろんな意味で。IKEAの国、フィンランドは人口10万人あたり53.2のメタルバンドが存在し、人口比率で世界で最も多くのメタルバンドがいるメタル超大国である。そんなフィンランドでコメディ映画史上最大規模の巨費が投入された本作。監督のインタビューによると、この映画を撮りたいと思った2つ目の理由が「フィンランドに腹を抱えて笑える映画がほとんどなかったから」だそうで、思惑通り腹を抱えて笑ったよ・・・。全体に漂う間抜け感と哀愁、その隙間にこれでもかと詰め込まれたバカバカしい笑いのバランスが絶妙。バンドメンバーひとりひとりの背景と個性が強烈で、イケメンなのに童貞臭を漂わせ、サラサラの長髪を不器用に書き上げる仕草すら笑える。バンド初のオリジナル曲が完成する経緯は動物愛護団体が激怒しそうな光景だし、バンド名は“インペイルド・レクタム"(※直訳すると直腸陥没)、アー写はハイウェイの自動速度取締機で撮影。ノルウェー国境で彼らの前に立ちはだかる“デルタ部隊”、まさかのバイキング登場。こんなん、笑いますやん・・・。しかし何より、この破天荒な作品の素敵なところは、極度のあがり症で自分に自信が持てなかったトゥロの成長譚としてストーリーが成立している点。そして、ヘヴィ・メタルを少々自虐的に扱いながらも、音楽への敬意を忘れず、観客を最高のステージに連れていってくれるところが素晴らしいのである。あーおかわりしたい。
 

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