銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】アガサ・クリスティー ねじれた家

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-25
アガサ・クリスティー ねじれた家』(2017年 イギリス)
 

うんちく

ベストセラー作家アガサ・クリスティーが自身の最高傑作と誇る、1949年に発表されたミステリー小説「ねじれた家」を映画化。『サラの鍵』などのジル・パケ=ブランネーが監督を務め、『ゴスフォード・パーク』などのジュリアン・フェロウズと『悪魔のくちづけ』などのティム・ローズ・プライスが脚本を手掛けた。主演は『天才作家の妻 -40年目の真実-』のグレン・クローズ。同作に共演したマックス・アイアンズ、『プリシラ』などのテレンス・スタンプ、『ドラゴン・タトゥーの女』などのジュリアン・サンズなど英国の名優たちが脇を固める。
 

あらすじ

無一文から巨万の富を築いた大富豪レオニデスが毒殺された。その孫娘であるソフィアは、かつての恋人のチャールズが営む探偵事務所を訪れ、一族のなかに犯人がいるとしてチャールズに捜査を依頼する。レオニデスの屋敷には、前妻の姉イーディス、愛人がいるらしい若い後妻、破産・倒産寸前の二人の息子など、莫大な遺産を巡って疑惑と嫉妬、憎悪をぶつけあう“心のねじれた”家族たちがいた。捜査を開始したチャールズは、ソフィアを含めた一族全員に殺害の動機があることに気が付くが...
 

かんそう

グレン・クローズ演じる、このねじれた家の主人の前妻の姉が物語の鍵を握っている。って、え、亡くなった前妻の姉って、関係なくない?例えて言うなら、私の姉が幼子を残して天に召されたとして、私が姉の嫁ぎ先に居座るってことである。謎。それが一番の謎。この時代はそういうの当たり前だったとか?ねじれた家ってそういうこと?ちなみにアガサ・クリスティ自身が自ら最高傑作と誇るこのミステリーのタイトルは、マザー・グースの童謡 ”there was a crooked man(ねじれた男)” の最終節 ”in a little crooked house” に由来しているそうだ。「ねじれた男がいて、ねじれた道を歩いて行った。男はねじれた垣根で、ねじれた銀貨を拾った。男はねじれた鼠を捕まえる、ねじれた猫を持っていた。そしてみんな一緒に小さな、ねじれた家に住んでいた。」実に不穏な童謡である。そんなねじれた家族を調査する、肝心の探偵が無能で存在感無さ過ぎ。どうでもいいけど『モーリス』の美青年ジュリアン・サンズ見る影無し。と思っているうちに「THE END」って、うそやーん。ミステリー小説を映画にすると大体こんなものなのか?そうなのか?正直に言うと、面白いか面白くないか分からなかった。そもそもアガサ・クリスティを一冊も読んだことがない。そもそもミステリー小説にそれほど興味がない。映画『オリエント急行殺人事件』も面白さがさっぱり分からなかった。あれ何で私この映画を観ようと思ったんだっけー
 

【映画】バイス

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-24
バイス』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

アダム・マッケイ監督、クリスチャン・ベイルスティーヴ・カレルなど『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のスタッフとキャストが再集結し、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務め、9・11後のアメリカをイラク戦争へと導いたディック・チェイニーを描いた社会派ドラマ。『アメリカン・ハッスル』などのエイミー・アダムス、『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェルナオミ・ワッツアルフレッド・モリナらが共演。話題作を次々と世に送り出すプランBが製作に加わり、ブラッド・ピットもプロデューサーとして名を連ねる。第91回アカデミー賞で作品賞ほか8部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。
 

あらすじ

1960年代半ば。酒癖の悪い電気工ディック・チェイニーは、後に妻となる恋人リンに激怒されたことをきっかけに政治の道を志す。型破りな下院議員ドナルド・ラムズフェルドのもとで政治の表と裏を学んだチェイニーは、やがて権力の虜となり、頭角を現していく。大統領首席補佐官、国防長官の職を経て、ジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領に就任し“影の大統領”として振る舞い始めた彼は、2001年9月11日の同時多発テロ事件では大統領を差し置いて危機対応にあたり、あの悪名高きイラク戦争へと国を導いていくが…
 

かんそう

副大統領は「大統領の死を待つのが仕事」などと揶揄されることもある。その目立たない地位を逆手にとって、傀儡のごとく大統領を操って強大な権力をふるい、無意味な戦争を引き起こして膨大な数の犠牲者を出し、アメリカと世界の歴史を根こそぎ塗り替えた“影の大統領”がいた。第43代アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュの下で副大統領を務め、「アメリカ史上最強で最凶の副大統領」と呼ばれたディック・チェイニーだ。原題の「VICE」は、”vice-president(副大統領)” を指すだけでなく、単独では「悪徳」「邪悪」という意味を持つ。果たして前半は面白いんだなぁ。フェイクエンドロールとか最高だし、さすがマッケイ監督小細工うまいわーと感心していると、如何せん後半で失速してしまう。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でも中弛みしたことを思い出した。なんで毎回中弛みするんや。同じくジョージ・W・ブッシュ政権下の裏側を描いた『記者たち 衝撃と畏怖の真実』のほうが面白かったなどと不届きなことを思いながら観た。が、約20キロにおよぶ体重の増量、一回5時間近くを要する特殊メイクを施して、約半世紀にわたるチェイニーの軌跡を体現したクリスチャン・ベールはもちろん、ラムズフェルド国防長官(スティーヴ・カレル)、ジョージ・W・ブッシュ大統領(サム・ロックウェル)、パウエル国務長官(タイラー・ペリー)、ライス大統領補佐官(リサ・ゲイ・ハミルトン)のそっくりさん度が一見の価値有りなので良しとする。そういう意味では実に面白い作品であるし、存命の人間をこれだけコキ下ろせるアメリカの映画って凄い。メディアが政治や権力に迎合する世の中において、映画や音楽は最後に残されたアメリカの良心なのかもしれない。
 

【映画】魂のゆくえ

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-23
『魂のゆくえ』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

タクシードライバー』『レイジング・ブル』などの傑作を手がけた脚本家、そして『アメリカン・ジゴロ』などの監督として知られる名匠ポール・シュレイダーが放つ人間ドラマ。戦争で失った息子への罪悪感を背負って暮らす牧師が、自分の所属する教会が社会的な問題を抱えていることに気づき、徐々に諦念と怒りで満ちていく様子を衝撃的に描く。『6才のボクが、大人になるまで。』などのイーサン・ホーク、『レ・ミゼラブル』などのアマンダ・セイフライドらが出演。配給は気鋭の映画スタジオA24。オスカーの前哨戦として知られるゴッサム賞では作品賞、脚本賞、男優賞の最多3部門でノミネートされ、脚本賞と男優賞を受賞。アカデミー賞では、ポール・シュレイダーが自身初となる脚本賞にノミネートされたほか、世界各国で64の映画賞を獲得した。
 

あらすじ

ニューヨーク州北部にある小さな教会「ファースト・リフォームド」のトラー牧師は、ミサにやってきた信徒の女性メアリーから、環境活動家である夫マイケルの悩みを聞いてほしいと相談を受ける。マイケルは地球の行く末を悲観するあまり、妊娠しているメアリーの出産を反対していたのだ。出産を受け入れるようマイケルの説得を試みるトラーだったが、そんななか、教会が環境汚染の元凶である大企業から間接的に巨額の献金を受けている事実を知り…。
 

かんそう

『いまを生きる』『リアリティ・バイツ』でイーサン・ホークに恋した女性は多いだろう。それはそれは美青年だったのであるが、いい味出してる個性派のオジサン俳優になったし、最近では多才振りを発揮してアーティストの印象も強い。彼がメガホンを取り、伝説的なピアニストでピアノ教師のシーモアバーンスタインの人生を追った『シーモアさんと、大人のための人生入門』は素晴らしいドキュメンタリーだった。そんなイーサンのベスト・アクトと言っても過言ではない本作、かなりの問題作である。『タクシードライバー』の脚本で知られるポール・シュレイダーが50年間苦悩し、自らの生い立ちにまつわる内なる葛藤を赤裸々に吐露しているのだ。それが爆発したと思われる衝撃のラストシーン「マジカル・ミステリー・ツアー」は観る者を茫然とさせ、完全に置き去りにしてしまう。『タクシードライバー』でベトナム戦争帰還兵トラヴィスが辿る末路といい、極めて厳格なカルヴァン主義の家庭に生まれ育った彼の目には、この世界が地獄のように見えているのかもしれない。つまりこの作品を観るにあたっては、カルヴァン主義について知っておく必要があるようだ。フランスの神学者カルヴァンによると、神の救済に預かる者と滅びる者はあらかじめ決められており(予定説)、すべての人間が罪によって全的に堕落している(全的堕落)とする。極めて割り切った思想を持つこの宗派はキリスト教において少数派であり、異端と見なされることも多い。この教えを背景に持ち、イラク戦争で失った息子への罪悪感を背負うトラー牧師は、環境破壊に絡む利権、宗教と政治の癒着など現代社会が孕むさまざまな問題に直面するうちに信仰心が揺らぎ、矛盾だらけの世界に絶望し、その歪みに落ちていくのである。衝撃的ながら静謐な語り口で描かれる、アメリカの深い闇。いやこれポール・シュレイダーの集大成で壮絶な作品なんだけど、日本人には理解し難く、受け入れ難いこと、この上ない・・・。
 

【映画】記者たち 衝撃と畏怖の真実

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-22
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

イラク戦争大義名分となった大量破壊兵器の存在に異を唱え、真実を追い続けたナイト・リッダーの記者たちを描いた社会派ドラマ。『スタンド・バイ・ミー』などで知られるロブ・ライナーが、監督、製作のみならずワシントン支局長役を自ら演じ、2003年のイラク戦争開戦時から構想していた企画を実現させた。『スリー・ビルボード』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたウディ・ハレルソン、『X-MEN』シリーズなどのジェームズ・マースデン、『ハリソン・フォード 逃亡者』などのトミー・リー・ジョーンズらがナイト・リッダーの記者を熱演し、ジェシカ・ビールミラ・ジョヴォヴィッチらが脇を固める。
 

あらすじ

2002年、アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領は大量破壊兵器保持を理由に、イラク侵攻に踏み切ろうとしていた。疑念を抱いていた新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコットは、部下のジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベル、元従軍記者でジャーナリストのジョー・ギャロウェイに取材を指示。大量破壊兵器保持の証拠は存在せず、それが政府の捏造、情報操作である事を突き止めていく。NYタイムズ、ワシントン・ポストなどの大手新聞をはじめ、アメリカ中のメディアが政府の方針を追認し、かつてないほど愛国心が高まった世間の潮流のなか、ナイト・リッダーは孤立していくが...
 

かんそう

さすが、名匠ロブ・ライナーの仕事である。面白いという表現を使うのは少々憚られるが、実に面白かった。クリスチャン・ベールが特殊メイクでチェイニー副大統領を演じた『バイス』など、悪名高きイラク戦争の真実を暴く作品が次々と公開されている。米英を中心とした連合国軍が「イラク大量破壊兵器保有している」という大義名分のもと、武装解除サダム・フセイン政権打倒を目的としてイラクへ軍事介入したが、のちに大量破壊兵器が発見されることはなく、捏造された情報であったことが明らかとなった。当時、大手メディアが軒並みジョージ・W・ブッシュ政権に迎合するなか、唯一異を唱えた新聞社があった。それが「ナイト・リッダー」であり、世に真実を伝えようと執念を燃やす記者たちの姿を映し出したのが本作だ。もっと難解でシリアスな作品を想像していたが、案外取っ付き易く、終始興味深く観た。実際、セリフを追うのが大変だが、ユーモアとロマンスが程よく散りばめられており、それぞれの登場人物にも親しみやすい。政府の広報機関に成り下がることを固辞し、逆境に屈することなく信念を貫き通した記者たちが、真実を伝えるため奔走し葛藤する姿が活写される。プライドをかけて仕事を全うするその姿が心を打つ。そして彼らのドラマと交差するように、戦争に突入する母国を憂い入隊を志願する1人の息子、その息子を戦場に送り出す家族の物語が紡がれる。この愚かな戦争によって払われた犠牲の一端を垣間見ることで、アメリカ政府が犯した罪の深さが浮き彫りとなり、怒りと哀しみが幾重にも折り重なって胸に迫り来るのだ。日本政府は、米国の「フセイン政権が大量破壊兵器の開発を続けている」という嘘とイラク戦争を支持し、米軍の物資や人員の輸送を支援し自衛隊を派遣した。少なくとも我々は関与していた、ということを忘れてはいけない。
 

【映画】翔んで埼玉

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-21
『翔んで埼玉』(2018年 日本)
 

うんちく

パタリロ!」で知られる漫画家の魔夜峰央が、1982年当時自らも居を構えていた埼玉県を自虐的に描き、2015年に復刊され話題となったギャグ漫画「翔んで埼玉」を実写映画化。『ヒミズ『私の男』などの二階堂ふみ、ミュージシャンのGACKTが主演を務め、中尾彬伊勢谷友介らが脇を固める。監督は『のだめカンタービレ』シリーズ、『テルマエ・ロマエ』シリーズの武内英樹
 

あらすじ

かつて、東京都民からひどい迫害を受けていた埼玉県民は、身を潜めてひっそりと暮らしていた。通行手形がないと東京に出入りできず、手形を持っていない者は強制送還されるため、埼玉県民は自分たちを解放してくれる救世主を出現を願っていた。一方、東京にある超名門校・白鵬堂学院では、都知事の息子で生徒会長の壇ノ浦百美が、埼玉県人を底辺とするヒエラルキーの頂点に君臨していた。そんなある日、容姿端麗なアメリカ帰りの転校生、麻実麗の出現により、百美の運命は大きく狂い始める。実は、麗は隠れ埼玉県人で、手形制度撤廃を目指して活動する埼玉解放戦線の主要メンバーだったのだ...
 

かんそう

周りのいい大人たちが口を揃えて面白い面白いと言うので、そんなに言うなら観ようじゃないかと。白鵬堂学院では間違いなくE組入りであろう東京都下にある映画館に行ってきた。ちなみに、元来より魔夜峰央は大好きである。オーブリー・ビアズリーに影響された、黒ベタを印象的に使ったコントラストの強い耽美な画風で、繰り広げられる荒唐無稽なギャグ漫画。要するに「パタリロ!」であるが、幼い日の私は美少年キラー・バンコランとマライヒの人間関係が理解できず、子供心に混乱したものである。今にして思えば、よくぞアニメ化したものだと思うが、現在ほどBLが一般化していない時代にあって、お茶の間はすんなりとそれを受け入れていたように思う。これはもはや魔夜峰央の魔力としか言いようがない。なぜかパタリロが大好きで全巻持っているという幼馴染がおり、大人になってから読み返す機会があったが、魔夜峰央ワールドに取り憑かれるように読破した。と思っていたら、1978年から現在まで連載が続いていると知り、驚いている。すごいな魔夜峰央。という訳で、「翔んで埼玉」も魔夜峰央ワールド全開の荒唐無稽なギャグ漫画として以前より認知しており、ほぼほぼ立ち読みしたので内容は把握していたが(買って読め)、旧来の魔夜峰央ファンを満足させる完成度だったと思う。伊勢谷さんの怪演も良かったが、個人的には、暗黒舞踏メイクの麿赤兒の使い方が一番面白かった。あんなん出落ち感ハンパないし、登場するたび笑うしかないですやん・・・。
 

【映画】ブラック・クランズマン

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-20
『ブラック・クランズマン』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

ドゥ・ザ・ライト・シング』『マルコムX』などでブラック・ムービーの礎を築いた名匠スパイク・リーが監督、脚本、製作を務め、黒人刑事が白人至上主義の過激派団体に入団して潜入捜査した実話を綴った小説を映像化。『セッション』のジェイソン・ブラム、『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールが製作陣に名を連ねる。主演は『マルコムX』のデンゼル・ワシントンを実父にもつジョン・デヴィッド・ワシントン。『沈黙 -サイレンス-』『パターソン』などのアダム・ドライバー、『スパイダーマン:ホームカミング』などのローラ・ハリアー、『アンダー・ザ・シルバー・レイク』などのトファー・グレイスらが共演。第71回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し、第91回アカデミー賞では作品、監督など6部門にノミネートされ、脚色賞を受賞。
 

あらすじ

1979年、コロラド州コロラドスプリングスの警察署で初の黒人刑事として採用されたロン・ストールワース。署内の白人刑事たちから冷遇されながらも捜査に燃えるロンは、情報部に配属されると、新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKKクー・クラックス・クラン>のメンバー募集に電話をかけ、徹底的に黒人差別発言を繰り返し入団の面接にまで漕ぎ着けてしまう。しかし黒人であるロンは面接に行けないため、同僚の白人刑事フリップ・ジマーマンに協力してもらうことに。電話はロン、KKKとの直接対面はフリップが担当し、二人で一人の人物を演じながら、KKKの内部調査を進めていくが...
 

かんそう

スパイク・リーと言えば『マルコムX』である。この作品に初めて出会った若き日の私は、言葉では言い表せないほどの強い衝撃を受けた。あの時のデンゼル・ワシントンの実の息子ジョン・デヴィッド・ワシントンが、黒人刑事ロン・ストールワースを演じる。なんとも感慨深い。相棒を演じたアダム・ドライバーはどんな作品に出演してもパターソンという名のバス運転手にしか見えないので、ほんとジム・ジャームッシュ罪深い。さて、原作ではロンの相棒の人種は明らかにされていないそうだが、スパイク・リーは「フィリップ」というユダヤ人の設定にした。KKKクー・クラックス・クラン)は白人至上主義の秘密結社である。正確にはプロテスタントアングロ・サクソン人WASP)などの北方系の白人のみが、神による選ばれし民として他の人種から優先され隔離されるべきであると主張するもので、それ以外の人種(黒人、アジア人、ヒスパニックなど)の市民権に異を唱え、カトリック、同性愛を否定し、反ユダヤ主義でもある。KKKに潜入するパターソン君がユダヤ人であることが殊更に物語の緊張感を高めていくが、皮肉と可笑しみを湛えたセリフの応酬、スパイク・リーのフラットな視点が、あらゆる人間の愚かさをあぶり出す。残念ながらアカデミー作品賞は逃してしまったが、実に見応えある作品であった。そしてやはり我々は、スパイク・リーが「いま」この映画を撮らなければいけなかったことについて、考えるべきだろう。KKKの幹部デヴィッド・デュークが劇中で繰り返し唱える「アメリカ・ファースト」がトランプ大統領とシンクロする。南北戦争キング牧師亡き後の1970年代、そして今のアメリカを映し出したスパイク・リーの痛烈なメッセージだ。憎しみに居場所なし。
 

【映画】マイ・ブックショップ

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-19
『マイ・ブックショップ』(2018年 スペイン,イギリス,ドイツ)
 

うんちく

死ぬまでにしたい10のこと』などで知られるイザベル・コイシェ監督が、イギリスの文学賞ブッカー賞を受賞したペネロピ・フィッツジェラルドの小説を映画化。2018年のスペイン・ゴヤ賞では見事、作品賞・監督賞・脚色賞と主要部門を受賞した。『メリー・ポピンズ リターンズ』のエミリー・モーティマーが主演を務め、『ラブ・アクチュアリー』などのビル・ナイ、『しあわせへのまわり道』などのパトリシア・クラークソンが共演。また、作中に登場するレイ・ブラッドベリ著「華氏451度」を映像化したフランソワ・トリュフォー監督『華氏451』で主演を務めたジュリー・クリスティが本作のナレーションを務めている。
 

あらすじ

1959年のイギリス、海辺の田舎町。戦争で夫を亡くしたフローレンスは、書店が一軒もない町で、夫との夢だった書店を開業しようとする。しかし保守的なこの町で女性の開業はまだ珍しく、住民たちの態度は冷ややかだった。そんななか、40年以上自宅に引きこもり読書に耽っていた老紳士ブランディッシュ氏と出会い、彼に支えられて何とか書店を軌道に乗せていく。ところが、彼女の商売を快く思わない町の有力者ガマート夫人が、書店を潰そうと画策し...
 

かんそう

イザベル・コイシュは『死ぬまでにしたい10のこと』で有名だが、個人的には『あなたになら言える秘密のこと』のほうが好きである。それで、イザベル・コイシュの新作だからと非常に楽しみにしていたのだが、のちに思い出したことには、私が好きなのはサラ・ポーリーだった。『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』で主演を務め、映画監督として『テイク・ディス・ワルツ』などの優れた作品を世に送り出した女優である。私が心待ちにしていたのはサラ・ポーリー作品だったという衝撃の事実はおいといて、全体の雰囲気がとても素敵な作品である。1950年代イギリスの、素朴な港町の風景が美しく、ファッションやインテリア、本の装丁、雑貨やお菓子など、作品を彩る全てがとても可愛らしい。しかし、なぜ彼女が「オールドハウス」にこだわって、そこで書店を開きたいのか、核心となる部分が描かれないので説得力に欠け、共感できないまま淡々と物語が展開していくので、フラストレーションとともに睡魔がそっと忍び寄り、いつしか深い闇に落ち・・・はっと気が付いた時には、フローレンスが保守的で閉鎖的な村社会の中で窮地に立たされてた。おいちゃん、見守ってあげられなくてごめんよ・・・。それにしても相変わらず、ビル・ナイおじさんがいい味出してた。フローレンスとビル・ナイ演じる老紳士を結びつけるのが、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」である。本の所持や読書が禁じられた近未来を描いた作品で、そのタイトルは紙が燃え始める温度(華氏451度≒摂氏233度)を意味しているそうだ。この本が示唆するところを理解しておくと、もっと楽しめるかもしれない。