銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】永遠のジャンゴ

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-79
『永遠のジャンゴ』(2017年 フランス)
 

うんちく

ロマ(ジプシー)音楽とスウィング・ジャズを融合させた音楽で「マイナー・スウィング」など数々の名曲を残し、ジミ・ヘンドリックスB.B.キングエリック・クラプトンジミー・ペイジジェフ・ベックなど世界中のミュージシャンたちに多大な影響を与えた天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト。才能に溢れた気ままで奔放なアーティスとして知られる彼の、第二次世界大戦中の知られざる物語を描く。主演は『ゼロ・ダーク・サーティ』『黒いスーツを着た男』のレダ・カティブ。『チャップリンからの贈り物』『大統領の料理人』などの脚本を手掛けるエチエンヌ・コマールの初監督作品となる。
 

あらすじ

1943年、ナチス・ドイツ占領下のフランス・パリ。ロマ出身のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトは、パリでもっとも華やかな名門ミュージックホールであるフォリー・ベルジェールに出演し、毎晩のように満員の観客からの喝采を浴びていた。アーティストとして頂点を極めるジャンゴだったが、その一方でナチスドイツによるロマ民族への迫害は激しさを増し、多くの同胞が虐殺されていた。家族やジャンゴ自身にも危険が迫るなか、彼にナチス官僚が集まる晩餐会での演奏が命じられ…...
 

かんそう

キング・オブ・スウィングと呼ばれた天才ジャズギタリストがいた。 ロマ音楽スウィング・ジャズを融合させたジプシー・スウィング(マヌーシュ・スウィング)の創始者ジャンゴ・ラインハルトだ。彼の知られざる物語を描いた作品を通して、ロマ民族(ジプシー)の哀しい歴史を知る。ホロコーストと言えばナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺であるが、ロマ民族ホロコーストの対象であったことはあまり知られていない。それどころか、5世紀頃インド北西部から”理想の地”を探して放浪を始めて以来、彼らは欧州において長きに渡って激しく迫害されてきた。それは現代まで続き、差別が貧困を生み、貧困が犯罪を生み、そして更なる差別を生んでいる。この作品が、そのことについて考えるきっかけになればいい。本作中ではジャンゴの音楽を充分に堪能できないので少々物足りないが、理不尽な差別に晒されるロマ民族の悲劇と相対して、民族や宗教の境界を超えて「人を踊らせる」音楽の力が描かれている。世界中のミュージシャンが影響を受けた、彼の美しい音楽に触れるきっかけになればいいと思う。
 

【映画】フラットライナーズ

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-78
『フラットライナーズ』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

ジュリア・ロバーツケヴィン・ベーコンらが出演した1990年のサスペンスをリメイク。臨死実験に挑んだ医学生たちが辿る恐るべき運命を描く。オリジナル版と同じく俳優マイケル・ダグラスが再び製作を務め、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』で知られるデンマーク出身のニールス・アルデン・オプレヴ監督がメガホンを取る。『JUNO/ジュノ』などのエレン・ペイジが主演を務め、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のディエゴ・ルナなどが共演。オリジナル版キャストであるキーファー・サザーランドも出演している。
 

あらすじ

医学生のコートニーは、“人は死んだらどうなるのか?”という好奇心を抑えきれず、禁断の臨死実験に挑む。それは彼女の心臓を仲間に止めてもらい、1分後に蘇生させるというものだった。死後の世界を垣間見た彼女は、突然ピアノが弾けるようになったり、抜群の記憶力を発揮したり、驚異的な能力が覚醒する。それを目の当たりにした仲間たちは我先に実験に乗り出し、心臓の停止時間を延長していくが…..
 

かんそう

飽きずに観たが特別際立ったところはなく、可もなく不可もなく。普通、という感想がしっくり来る映画であった。ホラー要素もありそこそこ楽しめるので、暇つぶしと思って見る分には悪くない。というか、勝手にサイコサスペンス的なものを想像していたので、え、ホラーなの!?と面食らったりした。1990年に制作された映画のリメイクとのことだが、前作観てないんだもん。ムー女子は臨死体験にまつわる描写を期待して観に行ったのだが(それは生物学的な側面からも)、サスペンスよりホラーな印象だし、自分の罪あるいは罪悪感と向き合う、という道徳的、宗教的な色合いも濃い。人は忘却の生き物だから、忘れるべくして忘れていることを詳細に思い出すと生命の危機に陥るんだなと。すべて忘却の彼方に置き去りにしておいたほうがいいけど、きちんと反省しておかないとあとで痛い目に遭うんだなと、そっと心のメモ帳に記したのであった・・・。
 

【映画】ルージュの手紙

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-77
ルージュの手紙』(2016年 フランス)
 

うんちく

フランスを代表する大女優カトリーヌ・ドヌーヴと『偉大なるマルグリット』『大統領の料理人』などのベテラン女優カトリーヌ・フロが初共演した人間ドラマ。対照的な生き方をしてきた血のつながらない母娘が30年ぶりの再会を果たし、互いの人生を交錯させながら変化していく様子を描く。『ヴィオレット ある作家の肖像』『セラフィーヌの庭』などのマルタン・プロヴォが監督を務め、『息子のまなざし』などのオリヴィエ・グルメらが共演している。
 

あらすじ

パリ郊外で助産婦として働きながら、女手ひとつで息子を育てあげてきたクレール。そんな彼女のもとに、30年前に行方がわからなくなった継母のベアトリスから連絡が入る。二人は再会するが、ベアトリスに捨てられたことに傷付き自殺をしてしまった父を思うクレールは、彼女を憎んでいた。自己中心的で自由奔放なベアトリスと、ストイックで真面目すぎるクレール。まるで正反対の二人だったが、反発を繰り返しながらもお互いを放っておくことができず.....。
 

かんそう

映画における映像の画質やトーンは質感を左右し、とても重要だと思う。日本映画はその点において、作り込みが甘いと常々思っている。この作品もそのきらいがあり、日本映画のようなのっぺりとした質感が好きになれなかった。あと、やっぱり邦題が超絶ダサい。と、やや不安を覚えながらの観賞だったが、御年74歳カトリーヌ・ドヌーヴの貫禄とカトリーヌ・フロの演技に引き込まれ、結果感動した。Wカトリーヌによる、血が繋がらない親子の物語が心に沁みる。かつて共に愛したもの、その思い出や痛みを分かち合う。裏切りと憎しみ、その赦しの果てに生まれる絆は血よりも濃い。おそらくメタファーとして繰り返し映し出されるリアルな出産シーンに度肝を抜かれるが、やや難しいテーマながら軽やかにユーモラスに描かれており、清々しい。それにしても、決して二枚目とは言い難いオリヴィエ・グルメがいい男を演じており、年を重ねていたずらに頑なになった心をじんわりと溶かされたいものである。である。
 

【映画】彼女が目覚めるその日まで

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-76
『彼女が目覚めるその日まで』(2016年 カナダ,アイルランド)
 

うんちく

2009年に「抗NMDA受容体脳炎」を発症したニューヨーク・ポスト紙の記者スザンナ・キャハランが、壮絶な闘病の日々を医療記録や家族の日誌などから再現したノンフィクションを発表、全米で大ベストセラーとなった。この衝撃の実話に感銘を受けたオスカー女優のシャーリーズ・セロンがプロデュースに乗り出し映画化を実現。監督は新鋭ジェラルド・バレット、『キック・アス』のクロエ・グレース・モレッツが主演を務めた。『ホビット』シリーズのリチャード・アーミティッジ、『マトリックス』シリーズのキャリー=アン・モス、『キングコング:髑髏島の巨神』のトーマス・マンらが脇を固める。
 

あらすじ

憧れのニューヨーク・ポスト紙で働く21歳のスザンナ・キャハラン。一流の記者になる夢へと突き進み、付き合い始めたばかりのミュージシャンの恋人スティーヴンとの関係も良好で、公私ともに充実した日々を送っていた。そんなある日、急に物忘れが激しくなり、トップ記事になるはずの大事な取材で大失態を犯してしまう。幻覚や幻聴に悩まされ、全身が痙攣する激しい発作を起こして入院するが、検査をしても結果は異常なし。会話すらできなくなったスザンナに医師たちは精神科への転院を進めるが、両親とスティーブンはその診断に疑いを抱き…..。
 

かんそう

原題は”BRAIN ON FIRE”であり、原作著書の邦題は「脳に棲む魔物」である。マーケット狙いのダサすぎる邦題のせいで何年か越しの花嫁と同じ括りにされちゃうけど(あれはあれで、実話は感動したけども)、これは抗NMDA受容体自己免疫性脳炎を1人でも多くの人に認知させ、無知による誤診によって救われない人を1人でも減らすための啓蒙映画である。そして、このよろしくない邦題のせいで先入観が生まれ、導入が長いと感じてしまう。これは罪深い・・・!配給会社は反省しなさい。さて、抗NMDA受容体自己免疫性脳炎は、細菌やウイルスから身体を守るはずの抗体が間違って自分の脳を攻撃してしまう免疫異常である。映画『エクソシスト』のモデルとなった少年も、この病気の疑いがあると言われている。その昔、狐憑きや悪魔憑き、あるいは精神病と片付けられ、闇に葬られてきた人々も、本当は救われたのかもしれない。彼女の場合、自分の娘を最後まで信じた両親の信念が、真実を見つけ出した。日本でも年間1000人ほどが発症していると推定されており、決して他人事ではない。その点からも、見応えある作品であった。それにしてもクロエたん大人になったなぁ。そして『ギフテッド』にも出演してたジェニー・スレイトが個人的注目株。
 

【映画】オリエント急行殺人事件

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-75
オリエント急行殺人事件』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

1974年にも映像化され、大ヒットしたアガサ・クリスティの傑作ミステリーをリメイク。世界的な名探偵エルキュール・ポアロが、豪華列車の客室で起きた密室殺人事件の解明に挑む。『ヘンリー五世』『世にも憂鬱なハムレットたち』などのケネス・ブラナーが監督と主演を兼任。ジョニー・デップミシェル・ファイファーデイジー・リドリージュディ・デンチペネロペ・クルスら豪華キャストが脇を固める。製作陣には、リドリー・スコットや『ブレードランナー2049』の脚本マイケル・グリーンらが名を連ねている。 
 

あらすじ

トルコ発フランス行きの豪華寝台列車オリエント急行で、アメリカ人富豪のエドワード・ラチェットが刺殺された。偶然列車に乗り合わせていた世界一の探偵のエルキュール・ポアロは鉄道会社から捜査を依頼され、密室殺人事件の解明に挑む。教授、執事、伯爵、伯爵夫人、秘書、家庭教師、宣教師、未亡人、セールスマン、メイド、医者、公爵夫人という目的地以外は共通点のない乗客たちと、車掌をあわせた13人全員が容疑者となるが…。
 

かんそう

面白くなくて、ぽかんとした。あらやだ言っちゃった。アガサ・クリスティの超ベストセラーである原作も読んでないし、名作の呼び声高い1974年の前作も観てないが、この題材と設定ならもっと面白いはずだってことくらいわかるわい。楽しみにしてたのになぁ。ミステリーの醍醐味である謎解きの過程を端折ってさくさく進むくせに、展開がスリリングではないので眠い。登場人物の描きかたが雑で、濃いキャストの割にはポアロ以外のキャラクターが立っていないので、感情移入も共感もできない。豪華キャストの無駄遣い。何も記憶に残らない映画であった。そう思っているのは私だけかもしれないが、面白くないものは面白くないっ。ジョニー・デップが出ると必ず駄作になるのは都市伝説じゃないってことが証明され、君とはもう仲良くしないよジョニー・・・。いやぁ、『シザーハンズ』は奇跡的にいい映画だったよねー(遠い目)
 

【映画】パーティーで女の子に話しかけるには

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-74
『パーティーで女の子に話しかけるには』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

今なおカリスマ的人気を誇る名作『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督が、ニール・ゲイマンの自伝的短編小説を映画化。1977年のロンドン郊外を舞台に、遠い惑星からやってきた美少女と内気なパンク少年の交流を描いた青春ラブストーリー。史上最年少でトニー賞主演男優賞を受賞したアレックス・シャープと『20センチュリー・ウーマン』『ネオン・デーモン』のエル・ファニングが主演を務め、オスカー女優ニコール・キッドマンらが共演。
 

あらすじ

1977年のロンドン郊外。内気なパンク少年エンは、偶然もぐりこんだパーティーで、不思議な美少女ザンと出会う。大好きな音楽やパンクファッションの話を興味深く聴いてくれるザンと、たちまち恋に落ちてしまったエン。だが、遠い惑星に帰らなければいけない彼女と過ごせる時間は、48時間だけだった。大人たちが決めたルールに反発したふたりは、大胆な逃避行に出るが…。
 

かんそう

とにかく呆気に取られた。それほど素晴らしかった。ジョン・キャメロン・ミッチェルの類稀れなる才能を強烈に見せつけられた。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』『ラビット・ホール』然り、絶対に彼にしか紡げない物語がある。「信じられないほどバカげていると同時に、なんて美しい話なんだと思った」とアレックス・シャープが言っている通り、ヘンテコで荒唐無稽で、甘美なる夢幻の世界。きっとこれまで誰も見たことがない、ボーイ・ミーツ・ガールの物語だ。こうして振り返りながら予告を見直しただけで、泣きそうになる。70年代の、ファッションではなくムーブメントとしてのパンクシーンを表現する衣装、作品を彩る音楽も最高だ。そしてエル・ファニングが死ぬほどかわいいのである。彼女の存在がなければ、この世界は成立しなかっただろう。思春期の揺らぎを見事に体現したアレックス・シャープも素晴らしい。忘れがたい傑作。
 

【映画】希望のかなた

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-73
 

うんちく

フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキが、前作『ル・アーヴルの靴みがき』で“港町3部作”と名付けたシリーズ名を自ら“難民3部作”に変え、再び難民問題と向かい合った人間ドラマ。シリア難民の青年が、ヘルシンキで出会った人々と絆を育みながら生き別れた妹を捜す姿を描く。主演を務めたシリア人俳優シェルワン・ハジは、映画初主演ながらダブリン国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。サカリ・クオスマネンをはじめとする個性的なカウリスマキ組の常連たち、そしてカウリスマキの愛犬ヴァルプが脇を固める。第67回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を獲得した。
 

あらすじ

内戦が激化する故郷シリアのアレッポを逃れ、北欧フィンランドの首都ヘルシンキに辿り着いた青年カーリド。空爆で全てを失った彼の唯一の望みは、ハンガリー国境で生き別れた妹ミリアムを捜し出すこと。難民申請をしたこの街でも、差別や暴力にさらされるカーリドだったが、偶然出会ったレストランオーナーのヴィクストロムから救いの手を差し伸べられる。そんなヴィクストロムもまた、行き詰まった過去を捨て、人生をやり直そうとしていた…。
 

かんそう

過去のない男』と出会って以来、アキ・カウリスマキが大好きである。傑作『ル・アーブルの靴みがき』に続く難民三部作の第二弾は、戦火を逃れヘルシンキに辿り着いたシリア難民カーリドの物語だ。“いい人のいい国”だと聞いていたフィンランドで、いわれのない差別や暴力にさらされ排除される一方、手を差し伸べた人々の小さな善意によって救われ、生きる希望を見出していく。その姿を、カウリスマキらしい厳密なる配色の構図、寡黙な脚本、無駄のないシンプルな演出で描いている。迷作『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を彷彿とさせるようなシュールな笑いも盛り込まれていて、旧来のファンはニヤリとしただろう。皮肉めいた辛辣なるユーモアで社会の不条理や不寛容を痛烈に批判しながらも、社会の片隅で慎ましく生きる市井の人々を見つめるカウリスマキのまなざしは、どこまでもあたたかく、やさしい。”当たり前”の人間性を失いつつある世界で、この珠玉の名作と出会った我々もまた、救われている。
 
「私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や家や車をかすめ取るずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことです。
ヨーロッパでは歴史的に、ステレオタイプな偏見が広がると、そこには不穏な共鳴が生まれてしまいます。臆せずに言えば『希望のかなた』はある言葉で、観客の感情を操り、彼らの意見や見解を疑いもなく感化しようとするいわゆる傾向映画です。そんな企みはたいてい失敗に終わるので、その後に残るものはユーモアに彩られた、正直で少しばかりメランコリックな物語であることを願います。一方でこの映画は、今この世界のどこかで生きている人々の現実を描いているのです」――アキ・カウリスマキ