銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】オーメン:ザ・ファースト

映画日誌’24-20:オーメン:ザ・ファースト

introduction:

1976年に公開され、全世界を恐怖に包み込んだレジェンド・オブ・ホラー『オーメン』に登場する悪魔の子・ダミアンの誕生にまつわる秘密を描いたホラー。これが劇場長編映画デビューとなるアルカシャ・スティーブンソンが監督を務め、『オーメン』の脚本家デヴィッド・セルツァーがキャラクターの創作を手掛けている。主演はテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のネル・タイガー・フリー、『生きる LIVING』などのビル・ナイ、『蜘蛛女のキス』などのソニア・ブラガ、『ウィッチ』などのラルフ・アイネソンらが共演する。(2024年 アメリカ)

story:

新たな人生を歩むべく、イタリア・ローマの教会にやってきたアメリカ人修練生のマーガレット。教会で修道女になるための奉仕活動に従事するなか、不可解な連続死に巻き込まれてしまう。やがて彼女は、恐怖で人々を支配すべく悪の化身を誕生させようとする教会の邪悪な陰謀を知ることに。すべてを明らかにしようとするマーガレットの前に、さらなる戦慄の真実が待ち受けていた。

review:

6月6日午前6時に誕生し、頭に「666」のアザを持つ「悪魔の子ダミアン」と、彼を取り巻く人々に起きる不吉な出来事を描き、世界中を恐怖のどん底に突き落としたホラー映画の金字塔『オーメン』の前日譚だ。反キリスト、ダミアン出生の秘密に迫る。1976年に公開された『オーメン』は、映画に関わった人々が数々の不可解な事故や現象に見舞われたことでも知られている。実際、主演俳優グレゴリー・ペックの息子の死を皮切りに、関係者が立て続けに落雷事故や爆破事件に遭遇し、撮影時に動物が凶暴化するなど、呪いはさまざまな形で現実のものとなった。

この呪われた物語の基本的な構想を生んだ広告会社の重役ロバート・マンガーは、映画の制作が具体化すると途端に態度を豹変させ人が変わったようになり、周囲の人々に「この映画は呪われるだろう」と語るようになったそうだ。そればかりか、「もし悪魔の唯一の武器が人間の眼に見えないものであるなら、そしてその武器を取りあげるようなことが試みられたら、悪魔は必ずそれを止めようとするだろう」という、何とも意味深な言葉を残したという(って「ムー」に書いてあった)。なお、本作の撮影中にも、関係者が犬やカラスに襲われ、落雷事故に遭遇したらしい。ヒィ。

全体に漂う不穏なムード、音楽と音響効果が素晴らしい。ジャンプスケア的なドッキリや不快でおぞましいグロ描写など、ホラー映画としてよく出来ている。なにしろホラー映画に耐性がありすぎる人なので恐いか恐くないか判断ができないんだが、生身の人間が創り出した深い闇とオカルティックな現象が織り成すドラマが面白かった。ダミアンは誕生しているわけだから、これから起きる悲劇の予測はついているものの、スリリングな展開にすっかり引き込まれてしまった。ところで枢機卿役のビル・ナイおじさん、『ラブ・アクチュアリー』のときと印象が変わらなくてすごいよね。

しかしここで重要な告白をしておくと、一作目の『オーメン』はおろか、これまでにシリーズの作品を一切観ていない。シリーズのファンの方に呪われそう。もちろん一般教養として「6月6日午前6時に生まれた」「頭に666のアザを持つ」「悪魔の子ダミアン」などのモチーフとあらすじくらいは知っていたが、そんなやつの感想なのでアテにしないほうがいいかもしれないし、だからこそニュートラルで先入観のない感想を抱いているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。実は人からもらったDVDが家にあるので観てみようかな・・・。

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【映画】オッペンハイマー

映画日誌’24-19:オッペンハイマー

introduction:

インターステラー』『TENET テネット』などの衝撃作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、「原爆の父」と呼ばれた天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を描いたドラマ。『インセプション』などノーラン監督作品に出演してきたキリアン・マーフィーが主演を務め、ロバート・ダウニー・Jr.、エミリー・ブラントマット・デイモン、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネットケネス・ブラナーなど豪華な顔ぶれが脇を固める。本作ではIMAX65ミリと65ミリ・ラージフォーマット・フィルムカメラとを組み合わせた、最高解像度の撮影を実践。第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門を受賞した。(2023年 アメリカ)

story:

第二次世界大戦下のアメリカ。極秘に立ち上げられたプロジェクト「マンハッタン計画」に参加した物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーは、優秀な科学者たちを率いて世界初の原子爆弾を開発に成功する。しかし、原爆が実戦で投下され、その恐るべき惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩する。戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが、冷戦や赤狩りなど、激動の時代の波に飲み込まれていく。

review:

1945年7月16日、アメリカ合衆国ニューメキシコ州で、人類最初の核実験がおこなわれた。「トリニティ実験」と呼ばれたこの核実験をもって、世界は「核の時代」に突入した。人類の活動が地質や生態系に影響を与えるようになった地質年代として提案されている「人新世」の始まりとされることもある。そしてその実験から数週間後、8月6日に高濃縮ウランを用いた原子爆弾リトルボーイ」が広島に、その3日後の8月9日にはプルトニウムを用いた原子爆弾「ファットマン」が長崎に投下され、1945年末までに広島で約14万人、長崎で約7万4千人もの市民が命を落としたのである。

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツが進める核兵器開発への危機感を背景に誕生した国家軍事プロジェクト「マンハッタン計画」の科学部門を率いて「トリニティ実験」を成功に導き、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマー。鬼才クリストファー・ノーランが、ピュリッツァー賞を受賞したノンフィクションをベースに、世界の運命を握ったこの天才科学者の栄光と没落の生涯を描き、2023年7月に全米公開されると世界興収10億ドルに迫る世界的大ヒットを記録。「バーベンハイマー」の炎上騒ぎなどもあり、大手が配給を見送ったため日本国内での公開が危ぶまれたが、ビターズ・エンドの英断によって2024年3月29日の劇場公開に至った。

広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンが出てこないことへの批判もあるようだが、クリストファー・ノーランは、世界が変わった瞬間に我々を立ち合わせた。「戦争を終わらせ、息子たちを家に帰すため」という大義名分によって、原爆が米国社会に歓迎されているさまが映し出され、日本人としては少々複雑だ。しかしその熱狂のはざまで、知的探究の果てに一線を超える破壊兵器を設計してしまった科学者の呵責と葛藤をくっきりと描き出しており、彼が生涯その十字架を背負って生きていたことを知る。きっと世界で唯一の被爆国で暮らす我々こそ、「神の火」を盗んで人類に与えたプロメテウスの顛末を目の当たりにするべきなのだ。

彼の物語は私たち全員に関わるものです。彼らの行動は、良かれ悪かれ、私たちの世界を規定し、私たちはその中で生き続けている。だからこそ、彼の物語をできるだけ大きなスクリーンにかけ、できるだけ多くの人に観てもらうことが、この映画の望むことなのです。——クリストファー・ノーラン

ノーランのストーリーテラーとしての求心力、映像の力は言わずもがな。賞レース総なめも納得の最高傑作、IMAXで体験することをお勧めする。アホなので人間関係の整理が追いつかなかったけど、実力派揃いのメインキャストはもちろん、ゲイリー・オールドマンケイシー・アフレックラミ・マレックなどのオスカー俳優がちょい役で出てきて贅沢なキャスティングに驚く。『戦場のメリークリスマス』のロレンス、世界一美しいターザンことアレクサンダー・スカルスガルドの弟グスタフも発見。どうでもいいけど、私の青春(笑)『メンフィス・ベル』のマシュー・モディーンがおじいちゃんになってて衝撃だったわい・・・。そしてアジアの星キー・ホイ・クァンを無視したロバート・ダウニー・Jr.のことは許さない。

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【映画】ゴーストバスターズ/フローズン・サマー

映画日誌’24-18:ゴーストバスターズ/フローズン・サマー

introduction:

1980年代に世界的ブームを巻き起こした映画『ゴーストバスターズ』のシリーズ第5作目。2021年に公開されたジェイソン・ライトマン監督の『ゴーストバスターズ アフターライフ』の続編となる。『モンスター ハウス』のギル・キーナンが監督を務め、ジェイソン・ライトマンと共同脚本を手がけた。『アントマン』シリーズなどのポール・ラッド、『ゴーン・ガール』などのキャリー・クーン、『僕らの世界が交わるまで』などのフィン・ウルフハード、『gifted ギフテッド』などのマッケナ・グレイスらが出演するほか、80年代版のビル・マーレイダン・エイクロイド、アーニー・ハドソンらが集結。(2024年 アメリカ)

story:

真夏のニューヨーク。謎の男によって、先祖代々伝わるという骨董品が街角のオカルト鑑定店に持ち込まれた。ゴースト退治のプロである”ゴーストバスターズ”として活動するフィービーらスペングラー家は、ゴースト研究所の調査チームと協力し、すべてを一瞬で凍らせる“デス・チル”のパワーを持つ史上最強ゴースト<ガラッカ>を封印する”ゴーストオーブ”であることを突き止める。しかし、手下のゴーストたちの策略によって、その封印が解き放たれ…

review:

3月末日。私の誕生日に、楽しみにしていた一本の映画が封切られた。みんな大好き『ゴーストバスターズ』だ。超常現象を研究していた科学者ピーター、レイモンド、イゴンの3人+ウィンストンがニューヨークの街でゴーストたちと戦ってから30年が経ち、イゴン・スペンクラー博士の孫娘が主人公に。シリーズ生みの親であるアイヴァン・ライトマン監督の息子、ジェイソン・ライトマン監督が始めた、新しいゴーストバスターズの物語の続編だ。

前作はオリジナル版へのリスペクトと愛がつまった、最高の映画だった。アウトサイダーたちが活躍する荒唐無稽な展開、ハイテクながらクラフト感あるお馴染みのガジェット、どこか愛嬌あるゴーストたち。父アイヴァンが創り出した「ゴーストバスターズ」のスピリットを息子ジェイソンが受け継ぎ、敬意をもって新しい世代の物語へと昇華させていた。あまりにも感動してパンフレットと「No Ghost」のキーホルダーを買って帰ったくらいだ。

というわけで『オッペンハイマー』を後回しにしてスキップしながら劇場に駆け込んだのであるが、すごく眠かった。というか盛大に寝た。一言で言うと冗長で退屈、全体的にイマイチ。なして!?どうして!?なんだが、後から気付いたことには、残念なことにジェイソン・ライトマンが監督を降板しておった・・・。脚本の執筆には参加していたとのことだけど、前作のエモさがないし、やたらと説明くさいセリフが眠気を誘う。

中途半端に家族や思春期の葛藤を差し込まれて、いつ氷河期来るんだよ・・・と思ってたら寝た。「海の向こうから巨大な氷柱が大量に出現し、街は氷の世界に」なったのかどうかも記憶が曖昧。気付いたら一家とゴーストが闘ってたけど、自分の身に一体何が起きたのやら。しかしゴーストバスターズの活躍にNYが歓喜して、あの名曲が流れてくると、まあいいかと言う気持ちになり、マシュマロマンのフィギュアほしぃーってなるからずるい。

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【映画】デューン 砂の惑星 PART2

映画日誌’24-17:デューン 砂の惑星 PART2

introduction:

『メッセージ』『ブレードランナー2049』などのドゥニ・ビルヌーブ監督がフランク・ハーバートSF小説デューン」を映像化し、第94回アカデミー賞で6部門に輝いたSFアクション『DUNE デューン 砂の惑星』の続編。惑星デューンを舞台に繰り広げられる壮大な宇宙戦争を描く。ティモシー・シャラメゼンデイヤレベッカ・ファーガソンら前作のキャストに加え、『エルヴィス』のオースティン・バトラー、『ミッドサマー』のフローレンス・ピュー、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』のレア・セドゥらが新たに出演する。(2024年 アメリカ)

story:

砂の惑星デューンをめぐるアトレイデス家とハルコンネン家の壮絶な宇宙戦争が勃発。ハルコンネン家の策略により、アトレイデス家は一族を滅ぼされてしまう。最愛の父とすべてを失い、唯一の生き残りとなった後継者ポールは、運命の女性である砂漠の民チャニと心を通わせながら、救世主としての運命に導かれていく。一方で、ハルコンネン家は宇宙を統べる皇帝と連携し、その力を増していた。新たな支配者としてデューンに送り込まれてきた次期男爵フェイド=ラウサに対し、ポールは反撃の狼煙を上げ、最終決戦に挑む。

review:

圧倒的な映像体験をした。想像を遥かに超えて、ただただ凄かった。低気圧と花粉症と抗ヒスタミン剤で冴えない脳がバキバキに覚醒して、眠気なんて宇宙の彼方に吹っ飛んでいった。どうせジェイソン・モモアたんは出てこないし寝ちゃうかも、なんて思ってて本当にすみませんでした・・・。一瞬一瞬に目が釘付けになり、166分があっという間。この没入感をどう言葉にしていいのか分からない。こんなに語彙力を失ったのはバーフバリ以来かもしれない。とにかく可能な限りIMAXで観るべきである。この映像体験を超えるのは、3作目だけだろう。

ティモシー・シャラメを愛でる映画であることは相変わらずだが、ていうかティモシー・シャラメが主演する映画は大体そうだが、今回からポールと敵対するハルコンネン家のフェイド=ラウサとして『エルヴィス』のオースティン・バトラーが登場。冷酷で残忍な暴君を、独特の存在感で演じる。最初、スカルスガルド家のアレクサンダーかと思った。ステラン父さん、原型留めてないけどハルコンネン男爵だしね。フローレンス・ピューもレア・セドゥも登場するだけで不穏だし、カルマ背負ってそうな存在自体が凶兆。もはや3作目が楽しみである。

ここにきて、俄然『ホドロフスキーのDUNE』を観たくなってきた。1975年にホドロフスキーによって小説「デューン」の映画化が企画されるも撮影を前に頓挫したという、“映画史上最も有名な実現しなかった映画”の顛末を描いたドキュメンタリーである。ホドロフスキーのストーリーボードはハリウッドの各スタジオに持ち込まれ、その構図や設定などのアイデアスターウォーズやエイリアンを始めとしたSF映画に多大なる影響を与えたと言われている。本作にもどのくらい影響を与えているのか、ホドロフスキーのファンとしても興味深い。

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【映画】DOGMAN ドッグマン

映画日誌’24-16:DOGMAN ドッグマン

introduction:

『レオン』のリュック・ベッソンが実際の事件に着想を得て監督・脚本を手がけたバイオレンスアクション。“ドッグマン”と呼ばれるダークヒーローの壮絶な人生を描く。『アンチヴァイラル』『ゲット・アウト』などのケイレブ・ランドリー・ジョーンズが主演を務め、『アルゴ』などのクリストファー・デナムらが共演する。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(2023年 フランス)

story:

ある夜、一台のトラックが警察に止められる。運転席には負傷した女装した男、荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、拘留所で自らの半生について語り始める。犬小屋で育てられた男ダグラスは、成長していくなかで恋を経験し、世間になじもうとするも失恋によって深く傷ついていく。犬たちの愛に何度も助けられてきた彼は、生きていくために犬たちとともに犯罪に手を染めるが、「死刑執行人」と呼ばれるギャングに目をつけられてしまう。

review:

「レオンの衝撃から30年」って間のキャリアがなかったことにされているリュック・ベッソンの新作観てきた。ジャン=ジャック・ベネックスレオス・カラックスとともに「恐るべき子供たち」と呼ばれ、ヌーヴェル・ヴァーグ以後のフランス映画界に「新しい波」をもたらしたはずの天才は、2000年代には映像作家としての輝きを失っていったように思う。そういえば広末とすったもんだした『WASABI』ってあったねぇ。2018年頃には性的暴行容疑で告発されたりもして、世の中的には「終わった人」の印象も強い。

そんなリュック・ベッソンが、父親によって犬小屋に監禁されていた少年の実話に触発されて「ドッグマン」というダークヒーローを誕生させ、完全復活を果たした(と言われている)。父親によって犬小屋に放り込まれ、激しい暴力に晒されながら育ち、失恋や裏切りに傷付き絶望しながらも、生きる術を求めて犬たちと共に犯罪にすら手を染めてしまう「ドッグマン」ことダグラス。精神科医との対話を通して、運命に見放された彼の数奇で凄絶な生い立ち、長い苦しみが淡々と回想されていく。

家族や社会に虐げられ、心身ともに満身創痍になりながらも人間性と尊厳を損なわないダグラスの生き様に心を掴まれてしまう。生活苦の果てにドラッグクイーンとして才能を開花させつつ、これが想像を絶するわんこ使いなのである。彼が犬たちと以心伝心だとして、いくらなんでも犬が賢すぎるが、そこはベッソン先生のファンタジーということでいいじゃないか。んな馬鹿なと思うけど、映像の力と面白さのほうが上回って不思議な説得力がある。そして宗教的なモチーフで描かれる意味深なラストシーンが、いっそう物語の寓話性を呼び起こす。

世界を慈しんでいるようでどこか物哀しい、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズのムードがいい。ジェンダーレスな透明感を持ち、神秘的。17歳の時コーエン兄弟の『ノーカントリー』でスクリーンデビューを飾ったらしい。その他『ゲットアウト』『フロリダプロジェクト』『スリービルボード』などちょいちょい出演しておられるんだけど、完全にノーマークだったなぁ。この無二の存在感、今後が楽しみ。どうでもいいけどマリリン・モンローに扮した姿はIKKO氏と空目してフフッてなったよね。まぼろし

trailer:

【映画】ネクスト・ゴール・ウィンズ

映画日誌’24-15:ネクスト・ゴール・ウィンズ

introduction:

ジョジョ・ラビット』『マイティ・ソー』シリーズのタイカ・ワイティティ監督が、世界最弱のサッカーチームがワールドカップ予選で起こした奇跡のような実話をもとに映画化したコメディドラマ。『それでも夜は明ける』のマイケル・ファスベンダーが主演を務め、『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』のオスカー・ナイトリー、「ハンドメイズ・テイル 侍女の物語」のエリザベス・モスらが共演する。(2023年 イギリス・アメリカ)

story:

米領サモアのサッカーチームは、2001年にワールドカップ予選史上最悪の0対31の大敗を喫して以来、1ゴールも決められずにいた。次の予選が迫るなか、破天荒で型破りな性格のためアメリカを追われたトーマス・ロンゲンが監督に就任する。かつて鬼コーチと呼ばれたロンゲンはチームの立て直しを図り、反発にあいながらも猛特訓を開始。選手とともに奇跡の一勝を目指すが・・・。

review:

ワールドカップ予選史上最悪の0対31の大敗を喫した世界最弱のサッカーチームが、初勝利を目指して2014年FIFAワールドカップ予選に挑むという何とも王道なスポーツドラマだが、実話ベースである。2014年にドキュメンタリー映画ネクスト・ゴール! 世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦』としても公開されたエピソードを、タイカ・ワイティティが独特のユーモアを交えて再構成したものだ。

本作を観て米領サモアサモア独立国の違いを初めて知るという体たらくだが、これはサモアの人々のことが好きにならざるを得ない。みんな陽気で明るく、心優しくて素朴だ。FIFA初のトランスジェンダー選手であるジャイヤ・サエルアが本作でも重要な役どころで登場するが、その存在が「ファファフィネ(第三の性)」として当たり前に受け入れられている社会にも、心が和む。ところで米領サモアサモア独立国の間には日付変更線が存在するって知ってた?

鬼コーチのロンゲンも、選手たちも、みんな挫折を味わった人々だ。ぶつかり合いながらもそれぞれが成長し、自分の人生を再生させていくストーリーがていねいに紡がれる。そしてワイティティ監督独特のイタズラ心というか茶目っ気というか、コントのようなユーモアが程よい塩梅で散りばめられおり、まんまと笑わせられてしまう。現実が厳しいと、悪い人が出てこない優しい世界が心に沁みる・・・とか言ってたら都内の上映がほぼほぼ終わってて何かゴメェン・・・。

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【映画】落下の解剖学

映画日誌’24-14:落下の解剖学

introduction:

人里離れた雪山の山荘で起きた転落死を巡る物語を描くヒューマンサスペンス。『愛欲のセラピー』のジュスティーヌ・トリエが監督を務め、『ONODA 一万夜を越えて』のアルチュール・アラリと共に脚本を手掛けた。主演は『ありがとう、トニ・エルドマン』のザンドラ・ヒュラー、『女の一生』のスワン・アルローほか、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツらが脇を固める。第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最高賞のパルムドールを受賞し、第96回アカデミー賞でも作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。(2023年 フランス)

story:

人里離れた雪山の山荘で、視覚障がいをもつ11歳の少年が血を流して倒れていた父親を発見する。悲鳴を聞いた母親が救助を要請するが、父親はすでに息絶えていた。当初は転落死と思われたが、その死には不審な点も多く、次第にベストセラー作家である妻サンドラに殺人容疑が向けられる。自らの無罪を主張するサンドラだったが、事件の真相が明らかになっていくなかで、夫婦のあいだに隠された秘密や嘘が露わになっていく。

review:

両親と息子の三人家族と犬が暮らす、人里離れた雪山の山荘で父親が転落死する。自殺か事故か、それとも他殺か。夫殺しの疑惑をかけられたベストセラー作家の妻と、死亡した夫の間に何があったのか。法廷で夫婦の秘密や嘘が暴露されていくサスペンスだ。が、みんな、思ってたのと違ったじゃろ!?わしゃ違った。名探偵が山荘にいた人々の嫌疑を明らかにするサスペンスだとは思ってなかったけど、想像していたものと全然違った。そして全体的にやや冗長で疲れた。

脚本は優れていると思うし、テーマが違うところにあるということは理解するが、それを掴みづらい。それをすぐ理解してこの映画を楽しめた人、何なの、天才なの・・・?なんというか、江戸前鮨が食べたいなぁと思っているところに、とある地方の珍妙な発酵食品を出された気分である。この映画を面白かったと言っている人は「たしかにスシやけど・・・」って心の中で思いながら「これはこれで美味しいですね!」って言ってるだけじゃないの・・・?

法廷で夫婦が抱えていた根深い問題が明らかになっていくが、ボタンを掛け違えたような夫婦の仲違いにヒリヒリするものの、真実は明らかにならないのでモヤモヤする。推測するしかないが、とにかくモヤモヤする。真相が分からないなりに腹落ちさせてほしかった。法廷で真相が明らかにならないという点では『ザリガニの鳴くところ』と同じだが、『ザリガニ』は主人公のカイアが犯人かどうかは問題じゃない面白さがあったように思う。あ!パルムドッグ賞を受賞したボーダーコリーのメッシがかわいいよ・・・。

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